神栖市立波崎第一中学校の探究学習事例

神栖市立波崎第一中学校(以下、波崎第一中学校)は、中学2年生の職場体験の代替として、2022年度から探究学習プログラム「クエストエデュケーション」の「コーポレートアクセス」を導入しました。
実施してどのように感じたのか。学年主任で英語の教科担当をされている、木内 佳代子(きうち かよこ)先生にお話をうかがいました。

きっかけは職場体験の代替

木内先生は、中学の頃の担任の先生の影響を受け、「あんな大人になりたい」と教員を志すようになりました。その先生はパワフルで生徒に寄り添い、海外旅行の話をして知らない世界を見せてくれる先生だったそうです。そして現在、波崎第一中学校で英語の教員をされています。

ー「コーポレートアクセス」を導入したきっかけを教えてください。

校長先生が本を読んでこのプログラムのことを知り、「こんなものがあるよ」とおすすめしてくださったんです。ちょうどコロナの影響で、恒例の職場体験プログラムが中止になってしまったこともあり、職場体験の代替案として取り組むことにしました。

校長先生が読まれた本には、探究学習の学校事例が掲載されていて、コーポレートアクセスに取り組んだ生徒たちの変化が書かれていたそうです。授業中におしゃべりをしているようなざわざわしていたクラスが「自分たちで考えて、発信していく」という体験を通じて、落ち着いたといった話で、私たちの学校でも生徒たちが想いを表現して、形にできたら面白いと思いました。

初めての試みで不安もありましたが、前年クエストの別プログラムに取り組んでいた先生から「面白いよ!」「スケジュールを調整してくれるのでそんなに負担はないよ」とうかがって、飛び込む決意ができました。

子どもたちが本気になった!

ー実際に「コーポレートアクセス」に取り組んでみて、いかがでしたか?

あぁ、もうすごい楽しかったですね。
正直、はじめは「どう進んでいくんだろうな」と不安な様子もありましたが、夏休みにフィールドワークでアンケートを行い、分析をして、次のミッションを与えられた頃には、子どもたちの熱量があがっていて「やばい、本気だ!」と感じました。

動画を通じて、企業で実際に働いている方々から直接「ミッション」を与えられたということが、子どもたちにとってよい体験になったのだと思います。

私たち教員が普段と同じように伝えるのとは違って、子どもたちの間でインターンとしての実感が湧いて、熱量があがるのを感じました。「いつも通り適当にやっておけばよいや」ではなくて、「やばい、これはもっとちゃんと考えなきゃ」という姿勢になっていました。

また実際に、教育と探求社の方々や企業の方々が学校にきて、子どもたちの話し合っていることを聞いてアドバイスをしてくださったり、オンラインで企業の方々に中間報告をしたり、他の学校とのミーティングなどもあって、どんどん真剣度が増していったと思います。

子どもたちそれぞれの活動に対して直接アドバイスを頂けたので、次に何をしたらいいのか、どうしたらよくなるのかが具体的に分かって、真剣に取り組める環境ができたなと感じました。

生徒を没入させる工夫①:採用面接

ー波崎第一中学校では、生徒たちがよりリアルな体験をできるような工夫を独自でされているとうかがいました。

はい、「インターン生として、自分が選んだ会社に入社する」というストーリーだったので、入社までの過程を疑似体験できるよう、履歴書作成と入社面談を行いました。

インターン先として選べる会社は6社(※2022年度)ありましたが、身近にあるインターン先企業が人気になりそうだったということもあり、履歴書と面接で決めることにしたんです。子どもたちには、「履歴書や面接の出来次第で第一志望にいけることもあれば、いけないこともあるよ」と伝えました。

ー履歴書提出と面接は、どのような流れで行われたのですか。

まず履歴書を書いて、それから学級での面接練習、学年での面接練習と、2回練習をしました。練習が終わったら、最後に本番の面接です。
本番の面接は、管理職の先生や学年主任の先生にご協力いただいて、面接官になっていただいて行いました。

ただ、面接練習では、私たちのような身近な担任が面接官役だったこともあり、子どもたちは和気あいあいと「きゃははは」と楽しい行事のような雰囲気だったんです。そこで、もう一回、質問に対して質疑応答をちゃんとできるよう、入室から退室まで息が抜けないような練習も一度追加して行いました。

生徒を没入させる工夫②:インターン任命式

ー面接の後は、どのようにされたのですか。

インターン生の任命式を行いました。
面接の結果からどの企業でどのチームになるかが決まり、それを担任の先生が学級で「任命式」という形で発表したんです。任命状を作り、それを子どもたち一人一人に渡しました。

インターン任命式の様子

インターン先の6社(※2022年度)は、みんなが知っている実際に存在する大きな企業です。子どもたちには、「楽しかったね、きゃはは」と運動会のような楽しい学校行事の一つとして終わるのではなく、社会と関わる体験としてしっかり取り組んで学んでほしいという思いがありました。

そのまま「はい、●●企業だったよー」と結果を伝えるだけだと、「やったー、●●企業だった!」と楽しいだけで終わってしまう感じがしたので、「イオンリテールさんから、メニコンさんから、インターン生として認められたんだ」「これからミッションを自分たちなりに解決して、発信していくんだ」ということを実感してほしかったんです。

その実感を、任命式をすることで感じてもらえたらなと思いました。
初めての取り組みでしたが、教育と探求社さんから他の学校の取り組みを教えていただいて、アイデアを頂いたり、任命状のテンプレートも頂いて、波崎第一中学校でも実施することができました。

生徒を没入させる工夫③:声がけや掲示物

ー先生たちの工夫で、生徒たちの体験がよりリアルなものになっていったなと思います。声がけはどのようにされていましたか?

「インターン生なんだよ」「新人研修として課題が出ているんだよ」というように、普段から設定にあわせて意識を持ってもらえるように声をかけていました。

これは、コーポレートアクセスの事前の研修があったからできたことだと思います。研修では、私たち教員が、いま生徒たちが取り組んでいるのと同じように「ミッション」に取り組みます。そこで教育と探求社の方々がされていた声かけで「こんなふうにやる気が出るんだ」と体験したので、それを子どもたちと関わるときにやってみようと思いました。

ー学校の掲示物にも工夫されていたとうかがいましたが、どのようなものを掲示されていたのですか。

学年の廊下の掲示板に、コーポレートアクセスで取り組む「ミッション」を貼っていました。インターン先は6社(※2022年度)あってそれぞれミッションが異なるので、子どもたちはインターン先によって違うミッションに取り組むことになります。

他チームのミッションも目に入れば、「いま自分たちはこのことを考えているけれど、あのチームはこれを考えているんだな」「これを考えるのは難しそうだな」と考えるきっかけができると思いました。

他には、全体のスケジュールを掲示したり、教員たちが研修でミッションに取り組んだので、その成果物も貼りました。

生徒を没入させる工夫④:学校内での発表

クエストでは、毎年2月にクエストに取り組んだ学校が全国から集まり、探求の成果を発表する「クエストカップ 全国大会」が開催されます。

ー「クエストカップ 全国大会」の前にも、学校内での発表を企画したとうかがいました。

そうですね、下級生下の学年に向けての発表会と、文化祭での発表会を考えていました。まずクラスで発表して優秀チームを決め、そのチームが体育館で全体の前で発表、さらにそこで最優秀チームを決めて文化祭で発表しようと考えていたんです。

実際に文化祭での発表は叶わなかったのですが、後輩たちに向けてのプレゼンは子どもたちが喜んでやっていました。自分たちの思いや考えをNOと言われずに発信できるというのは、子どもたちにとってとてもよいい機会だなと感じました。

学内での発表の様子

そのあと「クエストカップ 全国大会」にチーム「ガンバレル―ヤ」の出場が決まり、本番前のリハーサルとしてみんなの前で発表したこともありましたね。
目の前にたくさんの人がいるので「本番より緊張した!」と言っていました。

生徒・先生の変化

ー生徒たち、先生方の変化はありましたか?

子どもたちの変化は本当に大きかったです!絆が深まって、意見を言いやすくなっているのを感じました。コーポレートアクセスのブレストのルール、「何を言っても否定されない」というのは、子どもたちにとってはすごくよいい経験になったと思うんです。

これまでは「こんなことを言ったらなんて思われるかな」「否定されたらどうしよう」という思いも多少あったと思います。でも、コーポレートアクセスでブレストを何回もしたり、チームメイトをほめるワークがあったりして、徐々に変化してきました。

チームメイトをほめるワークも、最初は恥ずかしそうにしてたけれど、最後の24コマ目にはもう時間が足りないぐらい、みんなチームメイトのことを褒めあっていて成長を感じました。自分が思っていることを表現する機会がコーポレートアクセスの中に山ほどあって、子どもたちにとってはすごい実りが多かったと感じます。

この探究の授業以外、たとえば英語の授業でも、グループワークで「これ読めない、なんて読むの?」と素直に聞けるようになったり、クラス全体の雰囲気もあたたかいものに変化したなと思います。世の中の流れで、アクティブラーニングやグループで問題解決をしていく授業も増えているので、そうしたものもやりやすくなりました。

コーポレートアクセスをやったことで「どんな意見も認められてよい」というのが子どもたちの間にじわじわ浸透して、あったかい雰囲気になっていくっていうのが、本当によかったなぁと思います。

また、私たち教員としては、「待つ」という姿勢を覚えたことが大きいのではないかと思います。こちらから多くを語らなくても、私たちが待てれば子どもたちがぽつぽつと話しだしてくれる。

コーポレートアクセスの精神を受け継いで、「違うよ」ではなく「ほー面白いね」「もっと聞かせて」といった声をかけていくと、子どもたちも得意気げにたくさん話してくれるのだなということはとても勉強になりました。

職場体験に留まらない「心の成長」が得られた

職場体験の代替えとして導入したにも関わらず、それ以上のものになりました。
子どもたちが飽きずに一年間取り組めて、人間関係がちょっとスムーズになったり、「自分の意見を言ってもいいんだ」って思えたり、心の成長がとても大きかったなと思います。

一つの教材にいろんなものが詰まっていて、本当に職場体験の枠におさまらない。問題解決能力とか、批判的な思考を持つとか、ブレストで練り上げていく力とか、これまで学んできたいろいろなものを使って協力しながら、実現不可能を可能にしていこうとするところがすごく面白かったです。

茨城県神栖市立波崎第一中学校

昭和22(1947)年4月波崎町立波崎中学校創設元軍用廠舎(別所)として開校。平成17(2005)年8月町村合併に伴い現在の学校名に改称。「自立(自己決定)・貢献」を学校教育目標に掲げ、「波一プライド」『挑戦・前進』をスローガンに教育活動をすすめているところである。

木内 佳代子

2022年度に学年主任として担当した学年に職場体験学習に変わる新たなスタイルの学習として「コーポレートアクセス」を導入。チーム分けの際には、企業採用試験を想定した履歴書や面接試験を取り入れ、よりリアリティーのある企業インターン体験となるように試みた。生徒が主体的に「ミッション」に取り組むことで、人前で自信をもって意見を表明することができるようになったり、社会貢献について考えたりすることができた。2023年度進路指導主事、第3学年主任を務める。

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