「“人”から深く学べるプログラムで溢れている」京都光華中学高等学校の探究学習実践事例

京都光華中学高等学校(以下、光華高校)は、2017年より学校独自の探究学習「京都(アド)ベンチャー」を実施しており、2020年度よりクエストエデュケーション(以下、クエスト)を導入しました。現在は高校2年生にクエストの企業探究コース「コーポレートアクセス」、高校3年生に進路探究コース「マイストーリー」「ザ・ビジョン」を実施しています。

光華高校は4年前、なぜクエストを導入したのか、そして導入してこれまでにどのような変化があったのか。

今回は、光華高校の探究学習の設計に携わっている間浦幹浩(まうらみきひろ)先生にお話をうかがいました。

生徒には「自分がやりたい」と思うテーマを選んでほしい

ーコーポレートアクセスを導入しようと思った理由はなんですか。

生徒たちが大人になるにあたり、約1年間かけて集団で大きなプロジェクトをやりきる経験と、そこで集団の中での自分の役割を学ぶことが重要だと思ったためです。

この学校では「京都+(アド)ベンチャー」という「京都」を軸にした独自の探究活動をやっています。

生徒には、社会人としての自己の使命と強みに気づき、個性を発揮できるようになってほしいと思っています。

「京都+(アド)ベンチャー」にコーポレートアクセスを組み合わせれば、企業人としての目線を獲得したうえで、改めて京都の現状や課題を知った状態で、解決策などのアイデアを提案できると思いました。また、1年間の成果を社会に向けて発信する「クエストカップ」という全国大会もあるので生徒たちのモチベーションも作りやすいと思いました。

コースやクラスの垣根を超えて、探究学習を実施

ー光華高校ではクラスごとではなく、学年全体で探究学習を行っているとうかがいました。なぜそのような設計にしているのでしょうか。

もともとはクラス単位、コース単位の取り組みが比較的多い学校だったと思うんです。コースが違ったら教室のフロアも違うような設計になっていました。

ただ実際、大人になって企業で働くときは、他の部署にも飛び込んでいったり、他の企業と連携したり、たくさんの知らなかった人たちとも連携していく必要があります。そこで「初めてだから話しかけられない」「苦手だから一緒にやりたくない」とは言っていられない。

ですから高校でも、仲のいい人だけでプロジェクトを成し遂げる経験をしてしまうのではなく、これまで関わりのなかった人たちともたくさん話す機会を持てるようにしたかったのです。なので「クラスを超えて混ぜるのは当然」というぐらいの気概でやっています(笑)

生徒には、毎年最初に集まるとき、そのような意図を伝えています。

先生は生徒の新しい一面を発見し、生徒は自身を形成する機会に

―実際に今導入4年目になりましたが、クエストを導入してから生徒や先生に感じられる変化はありますか?

これについては、顕著なものがあると思います。クエストを導入してから「面接指導に活かせる材料が豊富にある」と言ってくださる先生が増えました。

特に今の面接入試や大学入試は自己PRの比重が大きく、「高校で3年間で頑張ったこと」を面接で語る場面が多々あります。その「頑張ったこと」の内容として、クエストの探究活動で経験したことを生き生きと挙げてくれる生徒が出てきました。

というのも、コーポレートアクセスでは、最終発表に向けて、提案するアイディアを更に磨き探究活動を進めていくために、中間発表があります。企業の方や学校の先生方に企画したアイディアを見てもらい、アドバイスやフィードバックをもらいます。

中間発表で生徒たちは、企業の方や先生方に自分たちのアイデアを突き返される経験をしていくのです。

そこで実際に生徒が「何クソ」と思ったり、「これは全部企画変えなあかん」と経験したりしていきます。実際、今年もそこまで考えてきた企画を、中間発表で指摘を受けて全部変えた班が5、6班ありました。

中間発表から最終発表までの残りの時間は限られているけれど、自分たちで「もう全部変える」と決断したからなんとか必死に頑張れた。そのように一生懸命取り組んだ経験が、本当にまっすぐそのままの生徒自身を形成していると感じています。自己PRや面接の練習をするときに、「生徒自身がそのまま現れる」。このことは、他の先生もよく感じているようです。

最後の発表の際、企業の方が来て、発表に対して本気でコメントを返してくれる。その時にもらったコメントやほめられた経験は、生徒にとって大きな成功体験の一つになっていると感じます。

またそうした企業の方々とのやりとりは生徒たちの進路にも影響を与えていて、生徒たちからは「この企業に興味を持った」「進路の幅が広がった」「進路選択に絞り込みをかけられた」という話もどんどん出てくるようになりました。

高校2年生でコーポレートアクセスをする意味を感じられましたし、進路のために生徒が自分を形成する材料になっていると感じています。

ーこれまでは、いかがでしたか。

そうですね、こういったことは、今までは部活動に入っている生徒が経験できるかどうかだったと思います。

毎年、探求社さんが開催するクエストカップ全国大会に、1チーム出場させていただいてるのですが、これまで全国大会に出場した生徒の半数は、部活動をしていない生徒だったんです。

受験のために部活を辞めた子であったりとか、ずっともう部活に入っていない子も含まれるのですが、そういった子も全国大会に出られるというのは普通に考えたら奇跡的な機会なんですよね。

文化部であっても運動部であっても、これまでは部活動に入っていなかったらそういう機会はないわけで、これも奇跡的な出会いですね。強く影響を受けて進路がごろっと変わった生徒も去年もおりましたし、教材とその周辺までいろいろな機会をいただいています。とてもありがたいです。

「人」の面白さから学び、つながれる教材

ー先生自身が感じているクエストの良さはなんでしょうか。

やっぱり「人とのつながり」だと思うんです。

私の学校では、「人」を教材にするものをたくさん導入させてもらっています。

コーポレートアクセスも、「企業からのミッション」と言いつつ、その企業の中の誰かの願いや思いがミッションになっているものですし、それを実際に発表で伝えて、その企業の方からの思いとコメントをいただける教材であるなと思っています。

なので、「人」がいないと成り立たない教材だと思ってるんです。

加えて、この「人とのつながり」で起こる学びを持続して行えるのがポイントだと感じています。

例えば、教員独自のつながりで探究の授業に関わってくださる外部の方もいるのですが、つながっていた先生が定年されてしまったり退職されてしまったりしたときに、果たして同じように外部の方が来てくださるのかというと、その保証はもちろんないです。

クエストでは、それこそ今後私が担当を外れたとしても、他の学校でもいきなり始めるとして、いきなりその「人の大切さ」、生徒が探求するにあたって絶対にターニングポイントとなる「人との繋がり」が確保できるというところが、とても大きいと思っています。

教材として「人」とつながれるというところは、私にとって大事なポイントになっているなと思います。

ーなるほど!単に「企業の人が学校に来る」という繋がりではなくて、教材の上にその人のドラマや想いがあって、そこに触れることができるということですね。

そうですね。実際に企業の方が「来る」「来ない」に関わらず、教材に入ってるものだけでも、なにかすごい感じられるものが私にも生徒にもあると思います。

プログラムの内容以前に、「人」を大切にして私たちは探求を進めてきた気がしていて、それはリアルだとなおいいですけど、リアルでなくてもそういった「人」を感じ取れるものは立派な教材だなとすごく思っています。

さいごに

ーこれから目指していることや、思い描いていることを教えてください!

そうですね、「嫌だけど集団で何かをする、別に好きにならなくてもいいから」を生徒には伝えていきたいですね。これは私が一番強く思っていることなんですけれども、好きにならなくてもいいから、何かをやりきる、そこに「在る」というような力強さをこの探求を通してつけてくれたらなと思っています。

これからの時代の子は今よりさらに人前で話すとか、誰かと関わることを苦手にしてくる生徒がもっと増えていくと思うんです。

もちろん学校というのは集団生活、集団の形成っていう意味ではすごい重要な場なのですが、それをすごい苦痛に感じる子はもっと増えてくる気がしています。

だからこそ、嫌なままでもいいから、とりあえず「人と関わる」ことを、やりきってほしいと願っています。

生徒たちが入学して、プログラムを受ける時に思っている不安や印象は「発表がたくさんある」だと思っています。実際プログラムにある以外でも、光華高校では中間発表前後にいくつもの「プチ発表」を取り入れているんですよね。

光華高校の生徒たちは、発表が苦手な子がとても多いのですが、そういった機会をたくさん用意している分、「嫌だけど場慣れはしていった」や「嫌いだけど嫌ではない」など、人前でしゃべることに対する受け止め方がすごい変わっていくんです。

これを、毎年違う生徒で、毎年難しくなってくる生徒に対して、変わらず提供していきたいと思っています。

グループの中に苦手な人が出てくる班はもちろんあります。生徒にはそれを受け止めながら、「嫌やけど関わるんや」というところを今後も大事にしながらこの教材を使っていきたいなと思っています。

京都光華中学高等学校

昭和15(1940)年に「光華高等女学校」として開校。昭和43(1968)年には幼稚園から大学までが揃う総合学園となる。浄土真宗・真宗大谷派の宗門校の1つで、校訓「真実心」を掲げ、仏教精神に基づいた女子教育を行っている。伝統文化学習が全コース全学年のカリキュラムに取り入れられている。

間浦 幹浩先生

2020年度より光華高校で導入された「コーポレートアクセス」の実施主担当となり、2021年度より探究主任。光華高校の探究学習「京都+(アド)ベンチャー」の設計にも携わり、コーポレートアクセスを効果的に組み込んだ。2022年度より高校に新設された「医療貢献コース(普通科)」のコースリーダーとなり、医療人マインドの醸成を目指した光華高校独自の病院インターンシッププログラムを開始。