【よこすかラボ】取り組んできた地域活動と「engine」を組み合わせて巻き起こせたこと

クエストエデュケーション(※)・地域探究コース「engine」は、中学生や高校生が地元企業と協働しながら、地域のリソースをかけあわせて、地元をよりよくするイノベーションプランを考え、発信するプログラムです。

その実践を通して、「次世代の人材の育成」や「地域の大人と子どもが共に学び続けるコミュニティの創造」をめざすプロジェクトでもあります。

(※)クエストエデュケーション……教育と探求社が提供するさまざまな探究学習プログラムの総称。各プログラム参加者が、1年間の活動の成果を社会に発信する全国大会もあります。

今回はこのプロジェクトを横須賀で進めている、合同会社よこすかラボ・代表の三田希美子氏にお話を伺いました。一般社団法人NELDの代表でもあり、同団体で展開してきた地域活動との“相乗効果”も感じているとのこと。地域に根差した活動をしてきた人・団体が「engine」を始めることの魅力に迫ります。

地域に対する想い1

住んでいる自分たちで地元を変えられないか

横須賀市は、私の生まれ育ったところ。その場所で中高生が地域を探究する「engine」のプロジェクトを始めたのは、以前から地元の活性化に取り組んでいたことと関係しています。

地元のことに目が向いたのは中学生のときでした。市区町村別の人口流出で、横須賀市が全国1位になっている、という不名誉なランキングを知ったのがきっかけです。

当時、私は都内の中高一貫校に通っていたので、地元に友達は少なく、まちへの愛着も特にありませんでした。でも、それがすごく寂しいことに思えたんですね。「私、全然地元のこと知らないな」って。このまちが問題を抱えているのに、住んでいる自分たちが何もできないのは「何か違うな」って。

通っていた中高一貫校が、社会とかかわる活動を後押ししてくれる学校だったので、高校生のときには横須賀市を元気にするためのアイデアを練り、ビジネスコンクールに出場しました。提案したのは空き家のリノベーション(改築)による活性化。ただ、ビジコンは結局アイデアベースで話が終わるので、それがすごくもったいないと感じるようになりました。

だから大学生になったとき、空き家活性化のアイデアは「本当に実装できるのか」を、横須賀市で試してみようと思いました。そうして立ち上げたのが、のちに一般社団法人にするNELDという学生団体です。

地域に対する想い

「中途半端なまち」の魅力を発見・創造したい

NELDは、tunnel(トンネル)のNELと、world(ワールド)のLDをかけ合わせた造語です。横須賀って山がちな地形で、トンネルの数が日本一多い都市なんですよ。昔の人たちがトンネルをつくることでみんなの暮らしをつなげてきたわけで、それが象徴的だなあ、と。NELDも同じように、まちとまち、人と人をつなげる存在でありたいと思っています。

横須賀にはほかにも軍港のまちという歴史があり、港の景色がきれいだったりと、いいところはあります。とはいえ「ここに観光にくれば絶対楽しいよ」と言い切れる自信はありません。トンネルも軍港も、知れば面白いけれどマイナーで、まち全体は大都会でもなければ、郷愁を誘う田舎でもない。いってみれば、いろんなことが「中途半端」なんですよ。

でもそこが逆に面白いと思うようになりました。人や企業、自然や建造物、リソースはいろいろあるのに、地元の人でも知らないことは多く、まだ「未開拓の地」なんだと。

例えば地域おこし協力隊に行った友人は「ぶっちゃけ、どこに行っても3か月いればその場所を好きになる」と言うのですが、彼のように土地と人に積極的にふれあっていけば、私たちだって横須賀市の魅力を、今以上に発見し、創造していけるかもしれない。

世界的な名所があるからまちを好きになるのではなく、まちのことを知ろうとし、自分たちで創っていこうとした先に、地元への愛着が生まれるんじゃいないか。そう思ったのです。

なおかつ、中途半端だと思っていたこの横須賀で、まちへの愛着をもつ人を増やして地域を盛り上げることができれば、人口減少・少子高齢化の問題から逃れられない全国の地域にも転用できるモデルケースを作れるかもしれない、と思いました。

地域でのアクション1

可能性を感じて人が集まるまちにするために

空き家活性化から始めたNELDの活動は、人をつなげてクリエイティブなまちづくりをするという方向性で、さまざまなプロジェクトを立ち上げながら、今も続けています。

今年で5年目。現在の取り組みの主軸は、横須賀市を盛り上げながら自分の夢も叶えていく25歳以下のエンターテイナーを、毎年のオーディションで発掘し、共に活動していくプロジェクトです。彼ら彼女らと、横須賀市内の施設やイベントの体験と発信、PR動画の撮影、ファッションショーなどを進めてきました。目下、映画制作も進行中です。

ほかにも、横須賀市内でのまちづくり×謎解きイベント、eスポーツ大会、文化祭などの企画・運営や、シェアスペースやシェアハウスの運営などを行なってきました。

こうした取り組みで、横須賀市で育った人はもちろん、市外や県外の人も「このまちならいろいろなことができる」と感じてくれれば、住む人が増えたり、継続的に関わろうとする関係人口が増えたりして、より面白いまちになるんじゃないかなと思っているのです。

組織体制は、団体設立時は私一人でしたが、プロジェクトごとにさまざまな人が関わってくれるようになりました。現在は私のほかにもう一人の理事がいて、あとはフリーランスや専門家の集まるコミュニティが育ってきて、そのなかで事業ごとにチームを組んで運営しているイメージです。

私自身もNELDの活動だけに専念してきたわけではなく、学生のときも、卒業してからも、フリーランスに近い形で、ほかにも面白そうなことがあれば自分から飛び込んでいました。そのひとつとして参画していたのが、一般社団法人ウィルドアさんの一事業であった「よこすかラボ」です。そしてそこで出会ったメンバーと「engine」を始めることになります。

地域でのアクション2

世代を越えて連携するコミュニティを創出

「よこすかラボ」は、横須賀市のなかに、高校生や大学生が大人と一緒に何かを探究できるコミュニティを創ることをめざしてスタートしました。初期のメンバーは、一般社団法人ウィルドアのスタッフさんと、当時はまだ学生だった私を含む地元の若者です。

高校生や大学生が、ここ横須賀で何か面白いことをやりたいと思っても、自分たちだけでは信用やお金が足りないことが多々あります。かといって、そこに共感して一緒に動いてくれる大人に地元で出会える機会はまだ限られています。結果、やりことのある若者ほど、挑戦できるチャンスの多い都内にわざわざ出て活動していたり……

だから横須賀市内においても、高校生や大学生が、地元の企業・NPO・行政・学校などと連携し、世代を越えた人と面白いことができる場をつくりたかったのです。

具体的に取り組んだことは、市の観光スポットのひとつ、無人島の猿島の今後のあり方を、高校生や大学生が地元企業と一緒に探究するプロジェクトなどです。そのなかで手ごたえを感じるようになり、このフィールドをどんどん耕すためにも、一般社団法人ウィルドアさんの事業から切り離し、さらに発展させよう、という話が出てきました。

同じころに耳にしたのが、教育と探求社さんが地域ごとに展開しようとしていた探究学習プログラム「engine」です。中高生が地元企業と一緒に、地元のリソースをかけあわせて地域をよりよくするプランを策定・発信するプログラム。私たちのめざす、世代を超えた連携とまさに方向性が一緒で、このプログラムを市内で運営する事業者に立候補しました(※)。

そしてこの事業を柱として、ラボの活動を共にしてきた4人のメンバーと合同会社よこすかラボを設立し、今までの活動も含めて、独立した組織として運営することにしたのです。

※地域探究コース「engine」のプログラムにおいては、学校や地元企業のサポートおよび大会の運営を、地元の事業者と、教育と探求社が協働で行っている。

「engine」のもつ可能性1

地域活動に参画する人の輪を広げられる

「engine」には、これまでに行ってきた地域活動にはなかった要素がいくつかありました。

一つは、ビジネスとして回していくための仕組みがすでにきちんと設計されていたことです。プログラムへの参画にあたり、学校さんや地元企業さんからはお金をいただくこと。その対価として、私たちは生徒や社員の成長をはじめ、これこれこうした価値の創出に努め、具体的にはこんな研修や教材を提供すること。そうしたビジョンや活動内容を、過去の事例や資料をもとに明確に示すことができます。

おかげで私たちからすれば、採算も含めて先を見通すことができますし、学校の先生や企業の方からしても、何をめざしてどんなことに取り組むのか、共通認識をもちやすいので、このプログラムに価値さえ感じてくれれば、参画しやすいのだと思うんですよ。

今までの地域活動は、「横須賀市でこういうことがやりたい」という想いありきで動き、賛同してくれた人たちとプロジェクトを手探りでつくっていのたで、正直、お金は二の次ところがありました。もちろんそうした挑戦は今後も大事にしたいです。ただ一方で、まちづくりに関することをビジネスとしてちゃんと回し、「こういう働き方もできるよ」と示すことで、この輪に加わってくれる人をさらに増やしたい、という思いもあったのです。

これまでの活動と違ったもう一つの要素は、学校単位で生徒のみなさんと向き合えるようになったことです。過去のプロジェクトでは、まちづくりに興味がある子や、やりたいことがある子にしかアプローチできませんでした。ですが「engine」には、最初はまったくやる気がないような生徒も、プログラムに参加してくれます。そうした子たちが、地元の人たちとふれあうなかでどんな変化を見せてくれるだろう、という期待感もあるんですよ。

「engine」のもつ可能性

地域の潜在的な魅力を引き出す起爆剤に

横須賀での「engine」初年度となる2023年度は、ラボのメンバーの母校の一つである高校で、パイロット版のプログラムを走らせているところです。

感触としては、NELDや独立前のラボのころから一緒にやってきた人たちがこのプログラムに一気に集結した感があって、すごく面白いです! 「engine」という土壌ができたことで、世代を越えた地域の交流をさらに深められたように感じています。

もともと地域には、人や企業、自然や建造物などいろいろなリソースがあって、ただ、それをどう可視化したり、どうつなげたりすればいいかわからないことが多いと思うんですよ。「engine」には、そうした地域の潜在的な魅力が芽吹くのを促す力があると感じています。

その点では全国各地でも、“箱”としては地域という場所があるのだから、そこにこの装置を組み込み、それこそ“エンジンをかける”ことをすれば、クルマのようにみんなで走り出せるところはたくさんあるのでなはいでしょうか。「engine」を起爆剤に地域を盛り上げていくところが増えていったら面白いですよね。

私たちよこすかラボでも、「engine」に参加してくれる仲間をさらに募っていく予定です。と同時に、ラボのコミュニティを、「engine」を体験した生徒たちにとって、何かやりたいことがあるときに「ラボに行けば相談できる」「人とつながれる」と思ってもらえる場所に育てていきたいと思っています。ラボに顔を出すことが、放課後に部活動をしたり習いごとをしたりするのと同じように、日常の選択肢のひとつになるような。

そうして地元の大人やこの土地の魅力にふれるなかで、学校の勉強だけでは力を発揮できずにいた子でもやりたいことや自分の良さを発見できるように背中を押して、一人ひとりの才能が開花するように、先生方と一緒にサポートしたいです。そしてその活動を通して、自分のまちにプライドをもって生きていく人も増やしていけたら、と考えています。

合同会社よこすかラボ 代表 三田希美子氏
神奈川県横須賀市在住。大学進学直後、学生団体NELD(ネルド)を発足。現在は一般社団法人NELDとして活動の幅を広げ、代表理事を務めている。また、2021年より産学官連携プロジェクト「よこすかラボ」に参画し、2023年にメンバーと合同会社を設立、代表に就任。この2団体を軸に、横須賀をフィールドに自分を表現できる若者を増やすことをめざして、さまざまなプロジェクトやイベントの企画、動き出した若者の伴走を行っている。

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