「私の選択」が社会を変える体験を。金融経済教育プログラム「お金の力-CHOICE-Digital」導入事例:ドルトン東京学園中等部・高等部

教科書で学ぶ「経済」と、日々の「買い物」。
このマクロとミクロの距離を、どのように埋めていけばいいのでしょうか。 

ドルトン東京学園中等部・高等部では、中学3年生の公民(経済分野)の導入として、金融経済教育プログラム「お金の力-CHOICE-Digital」を活用いただきました。
今回は、実践を担当された木之下先生に、導入の背景や授業での工夫、生徒たちの変化についてお話を伺いました。デジタルならではの強みを活かしたゲーム体験は、生徒たちの社会へのまなざしをどのように広げていったのかを探ります。

金融経済教育プログラム「お金の力-CHOICE-Digital」とは?

お金の使い方が社会や環境へどのような影響を与えるのかを、「お金の人生ゲーム」を通して体験的に学ぶことができるプログラムです。
消費や投資の選択がもたらす社会的インパクトを意識し、グループで意見交換することで、より有意義な選択を行うための判断力や責任感を育みます。本プログラムは、三菱UFJモルガン・スタンレー証券が社会貢献の一環として教育と探求社と開発し提供しているため、無償で導入できます。

        

「私の選択」が社会を変える体験を。金融経済教育プログラム「お金の力-CHOICE-Digital」導入事例:ドルトン東京学園中等部・高等部

       

導入の背景:経済活動の「実感」を伴う学びを求めて

――まずは、「お金の力-CHOICE-Digital」を導入されたきっかけを教えてください。

木之下先生: もともと高校の「公共」の授業でこのプログラムを活用しました。その時に中学の公民の「経済分野」でも活用できそうだという感触があり、今回中学3年生でも導入してみました。

公民、特に経済の単元は扱う範囲が広く、どうしても制度や仕組みといったマクロな視点での解説に終始しがちです。一方で、生徒たち自身には、まだ「働く」や「稼ぐ」といった実体験がほとんどありません。そのため、「コンビニでジュースを買う」という個人の消費行動が、どう企業の利益になり、ひいては社会や環境にどう影響するのか、「つながり」を実感として捉えにくいという課題がありました。

そこで、自分自身の選択が社会とリンクしていることを、ゲームを通して疑似体験できる「お金の力-CHOICE-Digital」が適しているのではないかと考え、導入を決めました。

       

授業の様子:デジタルならではのワクワク感と没入感

――実際の授業はどのように進められたのでしょうか。

木之下先生: 通常は5コマ程度のプログラムですが、今回は経済分野の導入としてじっくり取り組めるように授業構成をアレンジしました。

生徒たちの反応は、やはりデジタル教材ならではの「ワクワク感」が強かったですね。紙の教材よりもビジュアル的に訴えるものがありますし、操作も直感的なので、自然に入り込めていました。ゲームとしての楽しさが入り口になることで、学習へのモチベーションも高く取り組んでいました。     

「私の選択」が社会を変える体験を。金融経済教育プログラム「お金の力-CHOICE-Digital」導入事例:ドルトン東京学園中等部・高等部

    

――授業を進める中で、先生が意識されたことはありますか?

木之下先生: 単にゲームを「クリアする」ことが目的にならないよう、私はファシリテーターとして、生徒たちにあえて問いを投げかけ、意図的な「揺さぶり」をかけることを意識しました。

例えば、ゲーム中に自分たちの選択によって環境が悪化したり、自分たちの資産が減ったりしたときに、「それは本当に君たちが選んだ結果なのか?」「それとも、社会の状況によって『選ばされた』のか?」と問いかけます。

自分たちの意志で行動しているつもりでも、実は社会情勢や環境の変化に流されているかもしれない。そういった視点を持たせることで、ゲーム上の出来事をただのイベントとして流さず、自分の行動の意味を深く考えられるようにしました。

   

生徒の変化:「個人の利益」から「社会との共存」へ

――プログラムを通じて、生徒たちにどのような変化が見られましたか?

木之下先生: 最初はどのチームも「自分たちの資産(スコア)を上げること」に必死です。しかし、全員が自分の利益だけを追求して経済活動を行うと、ゲーム内の「環境」や「社会」が急激に悪化し、結果として自分たちの首を絞めることになります。

そこに気づいた瞬間、クラスの雰囲気がガラッと変わりました。
「自分たちのチームだけが勝てばいいわけじゃない」「環境を守らないと、経済も回らない」─そうした気づきから、チームの垣根を越えて協力し始めたんです。「このターンはみんなで環境回復に投資しよう!」と声を掛け合う姿も見られました。

これはまさに、日本の戦後復興から高度経済成長期、そして環境問題に直面している現代社会までの流れを追体験しているようでした。「個人の豊かさと社会の持続可能性はトレードオフではないか?」という葛藤を、理屈ではなく体験として学べたのは大きな成果だったと思います。

   

今後の展開:「プログラム体験」から「リアルな生活」へ    

「私の選択」が社会を変える体験を。金融経済教育プログラム「お金の力-CHOICE-Digital」導入事例:ドルトン東京学園中等部・高等部

   

――今回の「お金の力-CHOICE-Digital」での体験を、今後どのようにつなげていく予定ですか?

木之下先生: 実はこのプログラムの後、「一人暮らしプロジェクト」という授業を行う予定です。 手取り約19〜20万円の給与設定で、実際に住む家を探し、家賃を払い、食費や税金、保険料を計算して生活設計を考える、非常にリアルなシミュレーションです。

「お金の力-CHOICE-Digital」で、経済活動が社会に与える影響や、投資・保険といった「概念」をマクロな視点で理解した上で、次は自分事としてミクロな生活設計の実践に入っていく。この接続によって、単なる節約術ではない、社会との関わりの中での「お金の使い方」をより深く理解できると考えています。

――最後に、導入を検討されている先生方に向けて、今回の実践を通して感じたことをお聞かせください。

木之下先生: 「経済」と聞くと難しく感じられるかもしれませんが、このプログラムでは、生徒たちが楽しみながら、自然と社会の仕組みに気づいていく様子が見られました。個人や社会の変化がスコアとして可視化され、選択の結果が即座にフィードバックされる点は、 デジタルならでは良さであり、学びへの没入感や手応えにつながっていたと感じます。


また、「自分の選択が世界を変える」という実感を持って考える姿勢が、生徒たちに芽生え始めています。そして教師自身も、生徒たちの予想外の行動や、そこから生まれる対話を楽しむことが大事だと思います。

    


    

ドルトン東京学園中等部・高等部

東京都調布市にある2019年に開校した開校7年目の新しい中高一貫校。「自由」と「協働」を原理とする「ドルトン・プラン」を日本で実践し、生徒一人ひとりの主体性と興味を尊重し、自律的な学びを育てる新しい学校づくりを行っています。

生徒が自ら学びを設計する「アサインメント」、学年を越えた生徒同士のコミュニティである「ハウス」、自らの興味・関心を追求することのできる時間・仕組みである「ラボ」など独自の教育システムを展開し、多様な才能と主体性を引き出す教育を目指しています。

学校公式ウェブサイト:https://www.daltontokyo.ed.jp/

  

木之下 瞬(きのした しゅん)先生

2019年に開校メンバーとしてドルトン東京学園中等部・高等部に入職。社会科教育を土台に、生徒一人ひとりの思考や問いを起点とした学びのデザインに取り組んでいる。

学びが社会と接続するプロセスを重視し、探究学習やアントレプレナーシップ教育の企画・実践、企業や外部団体との連携によるプロジェクト型学習を推進。生徒が社会課題を自分ごととして捉え、試行錯誤を通して価値を生み出す学びの設計に注力してきた。

次世代が不確実な時代を主体的に考え、選び、行動する力を育む教育のあり方を、教育現場から摸索し続けている。