【すべての学校に、探究のとびらを届ける vol.1】生徒の自主性を最大化する「余白の設計」、通信制高校ならではのハイブリッド型探究学習の実践例:ワオ高等学校

近年、学習指導要領の改訂に伴い、「探究」の重要性が増しています。そんな中、メタバース空間上でのオンライン授業と、教育と探求社が開発した探究学習プログラム「クエストエデュケーション(以下、クエスト)」を年に2回のスクーリングで実践されているのが通信制高校のワオ高等学校(岡山県岡山市)です。
今回、教育と探求社の高出がワオ高等学校を訪問し、理事・副校長である河本 尚 先生に、生徒の主体性を引き出す工夫を伺ってきました。

高出:貴校はクエストを導入して3年目になりますが、他の教材と比較して、特筆すべきことなどはありますか?
河本先生:そうですね。いまの2年生は、初年次のスクーリングで貴社のクエストの中でも、「マイクエスチョン(※1)」を実践したので、「価値観は人によって異なる」ということを前提にしたコミュニケーションができていると思います。マイクエスチョンは、あるお題に対して自由にアイデアを出し合うカードゲーム形式なので、一緒に取り組んだ生徒がどのような思いでその答えに辿り着いたのかや、その人の基本的なものの考え方や価値観などを知ることができ、2年生全体のムードの良さにつながったと感じています。
※1 マイクエスチョン(MY QUESTION)は、クエストの中でも、生徒が自ら問いをつくり、問いを持って生きる面白さを体感する問い探究コースです。
▼ マイクエスチョンの紹介ページ:https://eduq.jp/for-school/quest/myquestion/
高出:先ほど見学させていただいたスクーリングでは、企業から出されたミッションについてグループごとにブレスト会議をしていた際、どのグループからもアイデアを書き出した付箋がたくさん出ていたので、マイクエスチョンでの経験が生きているのかなと感じました。
河本先生:これは本校ならではの性質かもしれませんが、グループでワークに取り組む際に、発言権の強い子の意見に引っ張られたり、出てくるアイデアが偏ったりということがありません。普段から(オンライン上でアバターを通してコミュニケーションを取っているため)生徒同士でフラットな関係を築き上げられているからなのかなと思います。
高出:たしかに。他の学校では、「先生が期待するような答え」や「大人や世間が聞いて喜ぶ模範的回答」をする子が多い中、ワオ高等学校の生徒たちは私たちの想定を上回る答えを返す子が多いですね。
河本先生:3年間クエストをやっていて面白いと感じるのは、生徒からそういう(予想外な)答えが返ってきた時ですね。
高出:貴校では、部活動として哲学部や心理学研究会などがありますが、もともと深く考えることや内省することに興味のある子が多いんでしょうか?
河本先生:うちの生徒は、ほとんどが不登校を経験しているため、自分の中にあるモヤモヤや葛藤みたいなものをうまく言葉にできないタイプが多いんです。そこを教員がオンラインという心理的安全性が確保された環境で緩やかに関わっていくことで、少しずつ心を開いてくれるようになります。その中で出てきた単語を文章にしてみたり、長い文章で表現してみたりという経験をしてきているので、自分の思いや考えを言語化することに興味があるのだと思います。
高出:先ほどの部活動紹介で入部を勧誘していた生徒たちも、以前はコミュニケーションが苦手だったんですか?
河本先生:そうですね。入学前は誰かの前で話をすることが苦手で、人と関わることすら拒絶する子もいました。そんな中、年に2回のスクーリングの際に、意図的にいろんな人と関わる時間を設けたり、話す時間を作ったりすることで、ようやく人とコミュニケーションを取ることが当たり前と思えるようになってきたのかなと。ですので、スクーリングはとても意味のあることだと捉えています。
高出:きっと、入学してから卒業するまでの間に、彼らの中ではすごい変化が起きているんでしょうね。クエストに取り組む前と取り組んだ後で生徒の思考や心境に変化はありましたか?

河本先生:そうですね。グループワークとかをする際に、自分なりに何か役割を担おうとしてくれる生徒が多くなった感覚はあります。例えば、みんながみんなアイデアを出すのが得意というわけではないので、自主的に議事録を取ってくれる子がいたり、進行役を買って出る子がいたり。みんなで学び合いの場を作るという姿勢が醸成されてきていると思います。
高出:先ほどの授業でも、自主的にメモを取る子がいたり、発表資料を作り出す子がいたりしました。仲間の意見や性格を尊重し、互いに補い合う様子がとても印象的でした。
河本先生:リアルだと、どの役割を担当するかをジャンケンで決めたりできるじゃないですか。オンラインだとそれができないので、自分がどう立ち振る舞えばグループワークがスムーズに進むのかを考えてくれるメンバーがすごく多い。オンラインのいいところの一つです。
高出:実際に、メタバースをどのように活用して授業を運営されているんですか?
河本先生:基本的に、リアルの教室でできることはすべてメタバース上でもできるようなっています。例えば、朝のホームルームで集まったり、他の生徒の発表を聞いたり、ユニークな先生の授業に参加したり。あとは、自分たちが気になったニュースをみんなで共有したりしています。一人で黙々とオンライン教材に取り組むのではなく、とにかくメタバース上に集まって対話するという機会を多く設定しているんです。
今日は年に2回のスクーリングの日でしたが、これが終わると、生徒同士で直接会う機会はほぼないんですよね。そのため、今後のプレゼン準備や企画内容の打ち合わせなどは、このバーチャルキャンパスの中で集まってできるようにしています。

高出:バーチャルキャンパスは常時開放されているんですか?
河本先生:そうです。基本的に、24時間いつでも好きな時間に入れるようにしています。つい先日は、夕方4時から集まっているグループもあれば、夜9時に集まっているグループもあったので、この辺りは全日制の学校だとできないことだと思いますね。
クエストの発表会が近づいてくると、普段の授業では顔を見せないような子が「チームで取り組んでいる活動だから」といってバーチャルキャンパスに来てくれたり、そこでみんなと一緒にプレゼン資料を作ったり、少しでも上手く発表できるようになりたいからと自主練する子なんかもいます。
高出:住んでいる場所や集まる時間帯に制限がないのは、バーチャルキャンパスならではのメリットですね。一方で、メタバース上だと難しいと感じる部分はありますか?
河本先生:フィールドワークは難しいですね。昨年はグループのメンバーをランダムに組んでいたので、物理的な距離の問題で企業訪問や工場見学といったフィールドワークができませんでした。そこで、今年はある程度居住エリアの近い生徒同士でグループを構成したので、みんなで集まって実際にインターン先の店舗を訪れてみたり、参考となりそうな資料をもらってきたりすることができました。
高出:先生方も年々レベルアップしている印象があります。
河本先生:私たち教員は、生徒にとって『正解を教えてくれる人』ではなく、『よき壁打ち相手』であるべきだと考えています。生徒が何かを決めようとしている際、安易に命令したり放任したりするのではなく、生徒の選択肢を広げられるようにサポートしてあげてくださいと先生方にはお願いしています。
また、本校では、生徒の探究活動をサポートするために複数の教員が一つのクラスを担当する「チーム担任制」を設けています。これにより、生徒は相性の問題を気にすることなく、困りごとに応じて相談する教員を選ぶことができます。これは、大人の世界でいうところの「この件で困ったらこの人に相談する」という仕組みを高校生のうちから体験させることでもあります。教員が伴走者として適切な距離を保つことで、生徒は大人に依存することなく、自力で問題解決に向かう力を身に付けていきます。

高出:最後に、今後の展望についてお聞かせください。
河本先生:今後は、生徒たちが考えたアイデアを実現させるフェーズへと移行していきたいと考えています。例えば、自分たちで考えた企画を企業に持ち込み、実際に商品化させたり、リアルに対価を得たりといった具合に。そういった経験は、社会の厳しさを知るとともに、生徒にとって大きな自信や成長につながる絶好の機会となります。
通信制高校の持つ柔軟な時間設計を最大限に生かし、生徒の学びを具体的な社会実装へとつなげることが本校の次なる挑戦です。
高出:今年もクエストカップ全国大会に出場するチームが出てくることを楽しみにしています。本日はどうもありがとうございました。
ワオ高等学校

約50年にわたり教育事業に取り組んできたワオ・コーポレーションが、日本の教育を変えるためにつくった広域通信制高校。
哲学・科学・経済を学ぶ「教養探究」を必修科目に、深く考え、対話する力を養う教育を展開している。社会課題を探究するスタディツアーなども多数実施し、オンラインとリアルの両面で学びを深めている。
ワオ高等学校 理事・副校長 河本 尚 先生

ワオグループの「能開センター」で、小学生から高校生までの受験指導に従事。
社会で求められる人物像が変わる中で、未来の教育進化に力を注ぎたいとワオ高校へ。学内でさまざまな探究プログラムの開発に取り組みながら、自身も社会課題を探究するために積極的に学外に飛び出し、さまざまなワークショップや学びの場などに参加。学びえたことを生徒や教職員に還元している。
【すべての学校に、探究のとびらを届ける】第2弾は、通信制高校「明蓬館高等学校」の事例です。是非ご覧ください!
第2弾 明蓬館のインタビュー記事はこちら:https://eduq.jp/news/tuusinseries-meihokan/