【すべての学校に、探究のとびらを届ける vol.3】生徒一人一人の価値観に出会い、仕事観を紡ぐ金融経済教育プログラム「お金の力-VALUE-」の実践例:熊本県立菊池支援学校
通信制高校や多様な学びの場での実践を紹介してきた本シリーズ。
第3弾では、「特別支援学校」という教育現場に焦点を当て、探究学習プログラムがどのように生徒の学びを支えているのかをお伝えします。
みなさんは、「特別支援学校」についてご存知ですか?
「特別支援学校」とは、障がいのある幼児・児童・生徒に対して、幼稚園、小学校、中学校、または高等学校に準じた教育を行うとともに、障がいによる学習上または生活上の困難を克服し、自立を図るために必要な知識技能を授けることを目的とする学校を指します。
今回、取材にご協力いただいたのは、熊本県合志市にある「熊本県立菊池支援学校」です。

一人一人の特性に寄り添い、「社会につながる力」を育む学校
熊本県立菊池支援学校では、「一人一人が輝く確かな教育をめざして」という教育理念のもと、障がいの状態や特性に応じた個別の教育プランを実践し、自立と社会参加に必要な力を育むことを大切にしています。
高等部1年生は全部で3クラス(1クラス定員8名)あり、発達段階としては小学1年生から4年生程度の生徒が多いそうです。自閉症やADHDを抱えている生徒も多く、ちょっとしたことで怒り出したり、じっとしていられなかったりと、感情のコントロールや集団での活動に難しさを感じる場面もあり、日々の授業では一人一人の状態に応じた丁寧な関わりが求められています。
「仕事とお金」を体感的に学べる時間として
そんな1年の総合的な探究学習の時間で導入されたのが、金融経済教育プログラム「お金の力-VALUE-」(※)です。
担当の原口先生によると、1年生ではちょうど「仕事とお金」をテーマに取り組む予定だったとのことで、カードゲームを使いながら「お金の価値」を体感できる点が導入の決め手となったそうです。
授業を始める前、先生方が気にかけていたのは、生徒たちの金銭感覚でした。定期的にお小遣いをもらって自分で管理している生徒はほとんどおらず、欲しいものがある時に保護者に買ってもらうというスタイルのご家庭が多いため、「モノ」や「コト」に対する金銭感覚は未知数だったと言います。
ところが、実際にカードゲームをやってみると、先生方の想像を超える反応が見られました。
好きなものに対しては「プライスレスでもいいからやりたい」とか、手間の掛かることに対しては「高額な報酬をもらえたとしてもやりたくない」と答える生徒がいるなど、発達段階が小学生相当の子でも、「モノ」や「コト」の値段を自分なりに値づけしたり、その値段に設定した理由をグループの中で共有したりする姿が見られたそうです。グループの中で考えを伝え合いながら楽しそうにゲームに取り組んでいたことがとても印象的だったと、原口先生は振り返ります。

情報としての「お金」から、自分ごととしての「お金」へ
これまでも社会科や家庭科で「お金」を扱う機会はありましたが、どちらかというと「クレジットカード取り扱い時の注意」や「お金の管理の仕方」といった知識やノウハウの伝達が中心で、なかなか生徒の実感が伴っていないと感じることが多かったそうです。
今回「お金の力-VALUE-」を実践したことで、「お金を大切に使うとはどういうことか?」という問いに対し、生徒一人一人が自分なりの考えを持ち、言語化することができました。その変化を他の先生方も非常に喜んでくださったとのことです。
学校独自の工夫が、学びをさらに深める
取材を通してとても印象的だったのは、プログラム内で使う正規のACTカード(プログラム内のアクションを指すカード)の他に、オリジナルのACTカードを付け加えていたことです。
菊池支援学校では、職業の授業の中で「作業的な学習」に取り組んでいることを踏まえ、実際に自分たちが卒業後に就くかもしれない仕事のカードを付け足しました。「働くとお金がもらえる」という当たり前のことを十分理解できていない生徒もいる中、仕事(作業内容)とお金(支払賃金)がより身近に感じられ、「もし自分がその作業をするならいくらで請け負うか?」という結びつきをよりイメージしやすかったのではないか、と先生方は話します。

仕事をするにあたって、何が自分の中で大事なポイントなのかを知る機会はとても大切です。例えば、勤務時間の長さや職場の人間関係、自宅でもできる仕事かどうかといった、どんな条件なら働きたいかという仕事観は人によって異なります。
今回、「お金」というテーマを入り口に、「自分にとってのお金の価値」や「仕事選びをする上で大事にしたいポイント」などを考えるきっかけとして非常に有効だったと原口先生に評価していただけました。また、情報を整理し、自分で「選ぶ」という経験ができたことで「働くこと」に対するモチベーションを上げるきっかけにもなったとお話しいただけました。
特別支援学校でも、探究は確かに根づく
カードを前にして、自分の気持ちを言葉にしようとする姿。友だちの意見に耳を傾け、「そういう考えもある」と受け止める瞬間。
今回の実践を通して、探究は特別な能力を前提とするものではなく、一人一人の感じ方や言葉に丁寧に向き合う時間の積み重ねなのだと感じられました。
発達段階や特性に違いがあっても、「自分はどう考えるか」「何を大切にしたいか」を問い続けることはできます。菊池支援学校の教室には、その芽が確かに育ちつつある様子が見て取れました。
なお、今年度は特別支援学校のほかにも、さまざまな学校で「お金の力-VALUE-」が導入されています。ろう学校では、授業は手話を使って進行されていますが、カードゲームの図や文を見ながら生徒たちは主体的に取り組めているそうです。
通信制高校、特別支援学校。学びの形や生徒の特性が違っても、探究のとびらは、どの学校にも確かに開かれています。教育と探求社はこれからも、多様な学びの現場に寄り添いながら、一人一人が社会とつながるための探究の機会を届けてまいります。
※金融経済教育プログラム「お金の力 -VALUE-」とは
お金の価値が、状況や視点によってどのように変化するのかを、身近な仕事や買い物を題材としたカードゲームを通じて体感的に学ぶ学習プログラムです。多様な価値観に触れながら、新たな発想や自分とお金との関係性を見つめ直すきっかけとなります。
知識を教え込むのではなく、「お金を大切に使うとは?」を、主体的・対話的に考えられるよう、カードを使った対話やグループワークを活用しているため、通信制高校や特別支援学校など、多様な学びの現場でも導入が続いています。
本プログラムは、三菱UFJモルガン・スタンレー証券が社会貢献の一環として教育と探求社と開発し提供しているため、無償で導入できます。
プログラムの詳細については、以下のリンクをご覧ください。
▼ お金の力-VALUE – MUFG マネび屋:https://manebiya.mufg.jp/programs/p08
【すべての学校に、探究のとびらを届ける】シリーズ第1弾、第2弾、第4弾も公開中です。
ぜひご覧ください。
第1弾 ワオ高等学校のインタビュー記事はこちら:https://eduq.jp/news/tuusinseries-wao/
第2弾 明蓬館SNECのインタビュー記事はこちら:https://eduq.jp/news/tuusinseries-meihokan/
第4弾 クラーク記念国際高等学校・熊本キャンパス卒業生のインタビュー記事はこちら:https://eduq.jp/news/tuusinseries-clarkkumamoto/