「分からないことが当たり前」。問いを立てる楽しさが、子どもたちの日常を、学びを、変えていく——岩手県金ケ崎町立永岡小学校の挑戦

岩手県の金ケ崎町立永岡小学校。ここでは今、5年生と6年生の子どもたちが、正解のない「問い」の世界に没頭しています。

「太陽って、夕日と朝日でなぜ印象が違うんだろう?」

「炎を進化させたらどうなる?」

大人でも答えに窮するような、瑞々しく鋭い問いの数々。最初は「難しい」「よく分からない」と戸惑っていた子どもたちが、いつしか「問いを持つことは楽しい」と目を輝かせるようになりました。

校内でどのように探究の火を灯し、子どもたちの学びの姿勢はどう変わっていったのか。その変容のプロセスと先生方の実感を紐解きます。

「分からないことが当たり前」。問いを立てる楽しさが、子どもたちの日常を、学びを、変えていく——岩手県金ケ崎町立永岡小学校の挑戦

「まずは楽しむ」から。カードゲームが拓いた探求の扉

「探究学習をどう始めたらいいか分からない」。そんな悩みを抱える先生は少なくありません。

永岡小学校で導入されたのは、自分だけの問いを見つけ、深めていく探究学習プログラム「マイクエスチョン(MQ)」。5年生のクラスでは、指導ガイドに沿ってカードゲームからスタートしました。

「最初はとにかく楽しむことを大切にしました」と振り返る先生方。ゲームを通じて、「相手の言葉を待つ」姿勢や「問いを面白がる」空気が自然と醸成されていきました。

やがて子どもたちは、日常の中にある小さな違和感に目を向け始めます。

「夕日がない世界って?」

「静かな空間って何だろう?」一人ひとりの中から自分なりの問いが生まれていったのです。

    

「ネットに載っていないなら、自分で考える」

特に印象的だったのが、5年生のSKくんの探求です。彼は自らの探求を”「夕日学」”と名付けました。

「夕日のいいところは?」という素朴な疑問から始まった彼の思考は、探求を進める中で「夕日は朝日とどう違うのか?」という、より具体的な問いへと発展していきます。タブレットで調べても、納得のいく答えは見つかりません。そこでSKくんが選んだのは、「自分で考えて書く」という道でした。

「まぶしさは似ているけれど、夕日は赤・オレンジ、朝日は黄・赤オレンジで、色が少し違う」。自分なりの観察と考察を、ワークシートにびっしりと書き込んでいったSKくん。

最終的に彼の問いは「夕日と朝日のいいところは?」へとさらに広がり、一つの答えに満足することなく、次なる「なぜ?」を見つけ出していました。

     

思考の壁を乗り越えて。自由研究も「スラスラ書ける」ように

もちろん、最初から全員の探求がスムーズに進んだわけではありません。抽象的な思考に苦戦し、手が止まってしまう子もいました。

「当初の予定よりもコマ数を増やし、一人ひとりのペースに合わせることにしました」と、先生もクラスの進捗に応じて柔軟に対応したことを明かしてくれました。また、子どもたちが「早く答えに行き着きたい」と焦る場面では、「その問いをさらに深めるとどうなるかな?」と声をかけるなど、丁寧に伴走することを心がけたそうです。

その積み重ねの結果は、夏休みの自由研究という学習場面にも確かな形で表れます。例年なら、「何を書けばいいか分からない」と悩んでいた子どもたちが、「今年はスラスラ書けた!」と自信を持って提出してきたのです。MQを通じて培われた「問いを立て、考えを組み立てる力」が、確実に子どもたちの身についていました。

算数も、歴史も。学校生活全体に広がる「問い」の素地

この変化は、探究学習の授業だけに留まりません。6年生のクラスでは、かつては否定的な意見が飛び交うこともありましたが、今では「分からないのが当たり前」という安心感が教室に流れています。

「人の意見をまずは認める。形からでもそうすることで、対話が深まるようになりました」と、先生方も子どもたちの姿勢の変化を感じています。

歴史の授業では「なぜこの人はこんな行動をしたのか?」と自発的に問いを立てたり、算数では友だちに積極的に質問したりする姿が増えました。教科を越えて、学びの姿勢そのものが主体的なものへと変わっています。

    

参加した子どもたちの声

探究学習の授業を終えた子どもたちの最終レポートには、成長の跡が刻まれていました。

「問いを深めてたくさんの問いを出し、出す力がついた。描いている世界が広がって楽しかった」(5年生)

「最初は問いを作るのが難しかったけれど、慣れると『なぜ?』と考えることが楽しくなった。他教科でも自分から進んで問いを見つけることができ、自分の考えを広げられたのが嬉しい」(6年生)

「友達と問いを出し合うことで、自分にはなかった新しい考え方に気づけた。日常の小さなことにも『なぜ?』と疑問を持つようになり、世界が少し違って見えるようになった」(6年生)

結び:小学校という「素地」を育む場所で

「間違えてもいい。問いを考える活動が、これほど子どもたちの思考を広げるとは思いませんでした」。先生方の言葉には、確かな実感がこもっています。

小学校という学びの土台を作る時期に、一人ひとりの内側から湧き出る「問い」を大切にすること。それは、自分自身の足で未来を歩き出すための、かけがえのない力になるはずです。

永岡小学校の挑戦は、これからの「探求学習」のあり方に、一つの明るい光を投げかけています。

マイクエスチョンとは
一人ひとりの「なぜ?」を起点に、考えることそのものを楽しむ学びを育てる探究学習プログラム「マイクエスチョン(MQ)」。その具体的な内容や活用のポイントは、以下のページでご紹介しています。

▼マイクエスチョン紹介ページ:https://eduq.jp/for-school/quest/myquestion/

     

金ケ崎町立永岡小学校の紹介

▼金ケ崎町立永岡小学校(岩手県金ケ崎町公式サイト):https://www.town.kanegasaki.iwate.jp/sc_nagaoka_sho/

<今回お話をうかがった先生方>

6年生担任 山田 裕大先生
5年生担任 櫻井 みゆき先生