一橋大学
イノベーション研究センター教授
米倉 誠一郎 先生
日本は、2010年に、過去42年間維持してきた米国に次ぐ「世界第2位の経済大国」の座を中国に明け渡しました。しかし、そのことよりももっと大きい問題は1人あたりのGDPです。1人あたりGDPで1980年に17位だった日本は、1995年には3位まで上がりました。その頃の1位はルクセンブルク。人口たったの42万人の、高度な経済に特化した小さな国です。2位はスイスで、人口790万人。東京都より小さい国ですが、金融や製薬、精密機械、さらには観光も強い国です。人口1億を超える日本が、その2か国に次いで世界3位だったことは、本当にすごいことだと思います。しかし、その後日本の順位は下がり続け、今や27位まで落ちてしまいました。この20年の間、私たちはどのように過ごしてきたのでしょうか?一人ひとりが価値を創造するということにきちんと向き合って来たのでしょうか?
もう一つ重要なのは、日本が教育、つまり“人”に投資していないということです。1990年、日本の税収は58兆円あり、社会保障費は11兆円でした。今年(2014年度)は税収54兆円、社会保障費31兆円。税収はほとんど変わらないのに、社会保障費だけ伸びています。一方、公教育支出の対GDP比率はOECD(経済開発協力機構)諸国のなかで、最低水準です。かつての日本は、教育にとてもお金をかける国でした。人口に占める学生比率の推移を見てみると、1870年にわずか4%しかいなかった日本の学生比率は、1910年にイギリスを抜き、1930年にアメリカを抜いたのです。この頃の投資が、1970年代までの日本の奇跡的成長を支えたのでしょう。当時、「今、投資しなければ、30年後の新しい世界に対応できない」と考えていたからです。
しかし、今や日本は、先進国の中で最も教育に投資しない国となっています。これは、人という資源しか持たない我が国にとって本当に憂慮すべきことです。豊かな日本の未来をつくる若者たちの教育は、学校や自治体のみに任せるのではなく、国家、企業、家庭、地域のすべてが全力を挙げて取り組むべき一大事業です。皆が本気で小さな一歩を踏み出すこと。それが日本にとっては大きな一歩になると信じています。
いつの時代も、現実の厚い壁を打ち破って新たな世界を切り開いてきたのは、未来をまっすぐな目で見つめる若者達です。英仏百年戦争を勝利に導いたジャンヌ・ダルクは19歳。坂本龍馬が単身江戸に出てきたのは18歳。スティーブ・ジョブスがアップルコンピュータを興したのは20歳の時でした。若者の内にわき上がる純粋な力が社会を突き動かし、結果としてその発展を支えてきたのです。大いなる可能性を秘めた若者たちに豊かな学びの機会を与え、志の襷を渡すことが、私たちの大人の重要な使命だと私は思うのです。
教育と探求社の「クエストエデュケーション」は、単に勉強することだけではなくて、子供たちの中に本物の“生きる力”を育むためのプログラムです。戦後の教育の中で、日本は平均的な戦力を作ることに関しては大成功したと思います。しかし、21世紀になって、これから22世紀になるという時に必要とされるのは、単に教科書の中だけの学びではなくて、多様な考え方を受け入れる力、どんな国の人に対しても自分の意見を述べる力、そして、本当の本質は何なのかを自分の頭で考え抜く力だと思います。クエストの中で、生徒たちは異なる考えをぶつけ合いながら、自分たちだけのオリジナルの答えを見つけていきます。その中で多くの力を身につけていきますが、その根本となるのが、自分を好きになり、信じる力です。“生きる力”というのは、“自分を信じる力”です。今の日本に必要なのは、まさにそれだと確信しています。
※所属はインタビュー当時のものです。
一橋大学
イノベーション研究センター教授
米倉 誠一郎 先生
大和ハウス工業 CSR部
小川泰史 氏
エスコラピオス学園
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瀬川 智紀 先生
文部科学大臣補佐官
東京大学・慶應義塾大学 教授
鈴木 寛 先生