2013年11月12日

「教育と探求」Vol.28 2013/11/12 ”『東海クエストミーティング2013』開催”

おはようございます。
教育と探求社の宮地です。

今日は、昔々の中国のお話しをしたいと思います。
紀元7世紀、唐の時代に、太宗という名君がいました。
太宗はある時、臣下を招き、以下のように問いました。
「草創(創業)と守文(維持)といずれが難きや」
(何かを創りあげることと、それによって出来上がった
ものを大切に維持し発展させることは
どちらのほうが難しいだろうか?)

この問いに、ひとりの臣下は
「乱世の中、次々と敵を滅ぼし、
勝ち抜いて成した国興しこそが難しい仕事だ」
と答えました。

また、もうひとりの臣下は
「新しい国を興すことは
それまでの為政の問題点を突き、
民の支持を得て行われるので、
それほど難しくはない。
しかし、ひとたび国を得てしまうと、
支配者におごりが出て、理想を見失い、
政治が逸脱する。
そうして民が疲弊し、国が滅び行く。
だから守文(維持)の方が難しい」
と答えました。

これを聞いた太宗は、どちらの言い分にも
一理あるが、創業の困難の時はもはや去ったとし、
守文の体制づくりに邁進し、二百年以上も続く
唐の礎を築いたといいます。

確かに、何か新たなものを生み出そうという
陽性の努力は結果が目に見えるので
頑張り甲斐もありますが、何かを守り維持しながらも
伸ばしていこうとする陰性の努力は
結果が見えにくく、かといって決して油断することは
出来ず、辛く厳しいものだという実感があります。

私自身振り返るに、以前に勤務していた
新聞社の中にあって、教育事業を打ち立てようと
悪戦苦闘していた頃、そして遂に起業し、
会社の未来に無邪気に夢を馳せていた頃、
寝る間もないほど毎日仕事に明け暮れていましたが、
疲れることを知らず、日々前向きなエネルギーに
溢れていました。
しかし、その草創の状態のエネルギーは
勢いはあっても、そう長続きするものではありません。
このあたりでさらに成熟した守文の力で足下を固め、
次なる発展のステージに向かって歩み始めることが
必要だと感じています。

奢ることなく、権力におぼれることなく、
現状に甘んじることなく、苦言、諫言を聞き入れ、
自らを律し、人を用いること。
その大切さが千年以上も前に記された
太宗の教えに綴られています。

企業の永続的な発展は
圧倒的な人気商品によるものでもなければ、
卓越したビジネスモデルによるものでもなく、
このような組織の内側から沸いてくる力によって
成されるのだと思います。

教育と探求社は、今月26日、創業9年目を迎えます。
これまでも山あり、谷ありで、
息つく暇もありませんでしたが、
みなさまの厚いご支援のおかげで、
なんとかここまで乗り越えてくることができました。
そのことに唯々感謝するとともに、私自身も今一度、
来し方を振り返り、経営者としての覚悟を固めて
次の一歩を進み始めたいと思います。

これからもどうぞよろしくお願い申し上げます。

教育と探求社
宮地勘司

—-【目 次】 ————————————————–

1.教育と探求社からのお知らせ
2.クエスト実践事例紹介
[立命館宇治高等学校(京都)]
3.QUEST DAYS~ある学校の授業風景~

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1.教育と探求社からのお知らせ
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(1)「東海クエストミーティング2013」開催

去る11月4日(月・祝)愛知の桜丘高等学校にて
「東海クエスト・ミーティング2013」が開催されました。
「クエストエデュケーション・企業探究コース」に取り組む
東海エリアの6つの学校から100名を超える生徒たちが
参加し、インターン先企業の先輩社員や、
他校の生徒たちと交流を通して学びを深めました。

◆詳細はこちらから
eduq.jp/news/archives/4520

(2)高校生が進路について考えるきっかけをつくる
「飛び出せ世界へ!
~高校生のためのグローバルリーダーゼミ」のご案内

来る12月1日(日)日経カンファレンスルームにて
日経Bizアカデミーと長崎大学の共同企画による
「羽ばたけ世界へ!~高校生のための
グローバルリーダーゼミ」が開催されます。

2回目となる今回は、世界の飢餓問題に取り組んでいる
知花くららさんによるトークショーのほか、
世界を舞台に活躍する3人のビジネスリーダーが
講師となり、自らの体験を元に生きた授業を展開します。

教育と探求社は、本イベントの企画・運営、
授業づくりのお手伝いを行っています。

なお、保護者のみなさん、学校の先生の参加も
同時に受け付けておりますので、奮ってご参加ください。

日   時:2013年12月1日(日)14:00~17:00
場   所:日経カンファレンスルーム
(地下鉄大手町駅C2b出口より直結より直結)
対   象:高校生(1~3年生すべて)、高卒生、
およびその保護者、教師
定   員:180名
受 講 料:無料(応募者多数の場合は、抽選となります)
申込〆切:2013年11月28日(木)
主   催:日本経済新聞社デジタルビジネス局/長崎大

◆詳細・お申し込みはこちらから
bizacademy.nikkei.co.jp/special/gls2013/

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2.クエスト実践事例紹介
[立命館宇治高等学校(京都)]
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このコーナーでは
「クエストエデュケーションプログラム」を導入している
学校の授業での様子や、ご担当の先生のインタビューを
紹介します。

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先生インタビュー
【立命館宇治高等学校 杉浦 真理 先生】

Q.クエストを政治経済の教科で導入していますが、
どのような形で取り入れているのでしょうか?

A.高1までの現代社会で習ってきた知識を活用する
発展編として、このプログラムを取り入れています。
もともと、僕の授業は教科書を使って授業を進める
というよりもグループワークが多くて、
たとえば政党を作って憲法の改正を議論するとか
「未来のエネルギーを考えろ」というお題を出して
10年後のエネルギーについて議論するとか、
その中の一つとして大体一ヶ月掛けて実施しています。

年間の授業カリキュラムでは、僕が考えた
オリジナル授業だけでなく、大学との連携授業等も
含まれているので、クエストに割ける時間数は
限られていますが、生徒たちが創造性豊かに考え、
色々なことを調べ、発表するという要素が
多く盛り込まれているこのプログラムは
生徒たちも勿論のこと、担当する僕自身も
たくさん刺激を受けて、毎年楽しんで
やらせてもらっています。

Q.教科書を使った講義形式の授業ではなく、
生徒が主体的に取り組めるグループワークが
中心になっているなんて、羨ましい限りですね。

A.グループワークをメインにした授業ができるのは、
生徒の9割以上が立命館大へ進学するというのが
一つありますね。
受験に縛られた授業をする必要がないんですよ。
高校の半数の生徒は中学からの一貫生なんですが、
彼らの場合、高1の段階で高3までに習うべき
カリキュラムが、ほぼすべて終わってしまいます。
しかも本校では、授業の改革目標として
“QUEST(探求する)”ということを掲げているので、
残り2年間は、さまざまな教科で創造的な授業を
受けられるのです。

そう考えると、本校は“探求型の学び”という
真の学びに多く触れるチャンスのある学校
といえるかもしれません。

Q.先生が生徒たちを指導する際に
心がけていることはありますか?

A.新しい発想を求めて
自分たちだけの答えを見つけよう!
ということを生徒たちには常々言っていますね。
従来の延長線上では面白くないよね、と。
過去の歴史を調べるとか、会社の強みを調べるとか、
それもすごく大事なことなんですが、
ブレークスルーする企画を出さなきゃダメだと
思うんです。
「与えられたミッション(課題)を通して、
イノベーションを起こす」
それがこのプログラムに取り組む一番の目的だと
僕は捉えています。

それから、型にはめず自由にやらせるということ。
学校によっては発表の形式やPowerPointのひな形を
先生が用意してしまうところがありますよね。
確かに会社の中だったら、企画書の作り方とか
決まった体裁みたいなものがあると思うんですが、
それをやってしまうと面白くなくなっちゃうんですよ。
個性が潰れてしまうんです。
どんどん型破りなことをやってほしいので、
こちらからは必要最低限の情報しか与えません。
彼らに質問されたら、フラッとそばに行って
一言アドバイスする程度で、自分からは積極的に
声は掛けません。
とにかく自由にやらせるように心がけています。

あと、これは僕の個人的な考えなんですが、
社会と繋がっているのだから自分たちだけが楽しい
という企画ではなく、社会に何か役に立つものを出したら
最高だよね、ということは伝えるようにしています。
それが功を奏して、今年は社会貢献系の企画が
結構出てきています。

Q.たった一ヶ月しかない中で、生徒たちはどのように
時間をやりくりして、企画まで仕上げているのですか?

A.基本的に、彼らにとって授業中は
アイディアを出す場なんです。
とことん話し合って、アイディアの種を蒔く
というイメージですね。
だから授業とそれ以外の時間を上手く切り分けて
作業しています。
PowerPointを作成したり、発表の練習なんかは
授業中ではまずやりません。
昼休みとか放課後のちょっとした時間に集まって
作業しているチームがほとんどです。

授業時間外でも抵抗なく取り組めるのは
日頃からグループワークを多く取り入れているので、
話し合う習慣ができているというのはあると思います。

どのチームも大体、部活の仲間同士で固まっているのが
多いみたいで、それ故に部活が終わった行き帰りで
気楽に話し合ったり、時間がないときなんかは
LINEを使って話し合っているようです。
いまどきの若者らしい企画会議ですよね(笑)

今年度は本当に時間がなくて、調査部分は
省略して、企業からミッション(課題)が与えられる
ところからスタートしました。
イマジネーションが膨らんで、面白いものは
たくさん出てきましたが、実際に数値でどう裏付けるか
とか、現実社会とどうマッチしているか
とか、コスト的にどうか、といったリサーチがないまま
進めてしまったので、今年の生徒たちは
“夢で走っている”という印象が強いですね。
そこは高校生の面白いところでもあるんですが、
説得力の部分はまだまだ弱いので、残り2週間で
裏付けの部分をカバーしてもらいたいなと思っています。

Q.最後に、クエストで生徒たちに
どのようなことを学んでほしいか教えて下さい。

A.どんなことでも何か作る時って
徹底的にリサーチして、それをチームでシェアして、
アイディアを生み出していきますよね。
だから一人じゃできない。
一人じゃできないような大きなことが
チームでだったらできる。
そういうクリエイティブなことをさせたいんです。
中には卓越したリーダーがいて、
ワーッとやっちゃうところもあるんですけど、
やっぱり多様な個性がぶつかり合って
導き出せるチームっていうのはすごいものを
生み出すんですよ。
実際、現実社会ってそうじゃないですか。
社員が一丸となって、多様な人材がぶつかりあって
議論して、そうすることで素晴らしいモノが
でき上がっていくし、各々の特性を生かした役割がある。
その練習をしているのがクエストだと思っています。
まさに「コーポレートアクセス」ですよね(笑)

◆過去の記事はこちらから
eduq.jp/interview/?p=656

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3.QUEST DAYS~ある学校の授業風景~
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このコーナーでは、ある高校でクエストに取り組む
現場の教師が、生徒と共に日々奮闘する姿を
エッセイ風に書き綴っていきます。

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10月28日「真実のことばを引き出すには」

約一ヶ月後に迫った校内発表会。
そろそろまとめ始めなければならない時期だが、
相変わらず思うようには進んでいない。

その原因が何か、最初はわからなかったが
観察しているうちに段々と見えてきた。

「自分の考えを主張しない」。
自分の意見ばかりをぶつけて、
チームがギクシャクするのは過去いくつか見てきたが、
今年は不思議なくらい意見をぶつけ合う
という場面に出くわさない。
お互いを探り合っているのか、意見をぶつけ合うことを
避けているのか…本心はわからない。

なぜだろう。
否定されるのが嫌なのか。
自由にブレインストーミングをしていたときの
盛り上がりから一転し、アイディアを本格的に固めていく
段階になると、次第に賑やかに話し合う場面が
少なくなっていった。
考えることに疲れてしまったのだろうか。

そういえば…と、あることを思い出した。
ここ数週間、ある生徒が不定期ではあるものの
思い浮かんだことがあると、
メールで送ってくるようになった。
本来ならば、授業の話し合いの場で
みんなに伝えるはずのことを、間接的な“文章”を通じて
私に伝えてきてくれるようになっていた。
これは彼女にとって、非常に大きな変化だった。

というのも、日頃から授業の最中は
自由に言葉を発するが、何かまとまったアイディアを
提案したり、意見を述べる状況になると
絶対に発言しなかった生徒だったからだ。
クエストの授業でも最初の頃に
「私はアイディアとか出すのが超苦手だから、いわない」
と宣言して、自分の考えをいうことを
できる限り避けていた。

その彼女が私に送ってきたアイディアの種には
毎回ドキッとするほど胸に突き刺さるものがあった。
「考えをすぐにことばにするのは苦手だけれど、
ほかの子の何気ない会話や自分の頭に浮かんだことを、
じっくり咀嚼する力があるのでは…」
普段の姿からは想像することができない
彼女の感性の鋭さを初めて知った。

もしかしたら、ほかのメンバーも大なり小なり
彼女のように、自分の考えを他者に伝えることが
怖いのかもしれない。

自分に置き換えてみると、確かにそうだ。
大人の私ですら、自分のアイディアを
誰かに伝えるときは未だに恐怖であり、
追い込まれた状況にならない限り、躊躇する。

アイディアをジャッジされる恐怖。
理解されないかもしれない、という不安。
何から話せばよいのか、話の取っ掛かりに躊躇する
あの緊張感。
いつも自分が社会の中で直面しているこの感情を
彼女たちも教室の中で、
私以上に感じているのかもしれない。

目の前にいる生徒が、もし私だったら…
わからなくなったときは、彼女たちを自分に置き換えて
こんな風にされたら嬉しいと感じることを試してみる。

「大体テーマは固まったから、
考えがまとまっているものから自由に話して、
みんなで共有してみようか」
そう促すと、リーダーが中心となって
雑談のような発表が始まる。

その中で、興味をそそることばを発する生徒がいた。
「えっ、それってどういうことなの?」
と尋ねてみると、彼女は自信なさげに説明し始めた。
その言葉は先生に褒められたくて意図的に発せられる
“いい子ちゃん”のそれとは違う、
彼女の経験に裏付けられた飾らない真実の言葉だった。

「そうそう、それ!今いってくれたことって、
すごく面白いんじゃない?」
彼女は「え、こんなことが面白いと思ってもらえるの?」
というような表情をしている。
前述した、メールで自分の考えを伝えてくるようになった
彼女も、私が彼女の感性の鋭さに感動して、
その素晴らしさを伝えたとき
「こんな反応が返ってくるの?」
という戸惑いの表情を見せていた。

誰かが「いいね!」と感じることは
案外、自分自身では客観的に捉えられないことの方が
多いものだ。

その後も、インタビュアーになったつもりで
何気ないことばを拾って聞き出してみると、
こんなことを思っていたのか、と驚くような言葉が
たくさん出てきた。
実は色んなことを、彼女たちなりに一生懸命考えて
こんなにもワクワクするアイディアの種を
胸の内に持っていることを知り、嬉しかった。

真実のことばを引き出すカギは
純粋なる興味や素朴な問いかけを発すること。

普段、誰かと会話をしていると、
思わず相手に本音を打ち明けてしまうときがある。
そのときの心境を振り返ってみると、
相手が純粋な興味関心を持って
素朴な問いかけをしてくれるときだと気づく。
自分でも気づいていなかったようなことを
その相手から引き出されて、驚くことがある。

どうやら、その状況を作ることと同じかもしれない。
こんなにも素晴らしい感性を持ち、アイディアの種を
くすぶらせている彼女たちの一番よいところを
引き出すのも、ファシリテーターである自分に課せられた
使命なんだなぁ、と実感した。

バラバラのアイディアの種を集約し、
昇華させるという課題が次に待ち受けているが、
また一歩前に進むことができたような気がする。

◆過去の記事はこちらから
eduq.jp/days/archives/1283



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