2013年04月09日
おはようございます。
教育と探求社の宮地です。
さて新年度に入り、出会いと別れが入り乱れ、
心が波立つような日々が続いています。
昨年度、初めてクエストを導入し、視界不良の中を懸命に走り切り、
本当に大きな学びの成果を、生徒にもたらした先生とも、
学年持ち上がりでしばしの別れ。
忙しい業務の合間を縫っては何度も学校を訪問していただき、
生徒の成長を共に愛で、共に泣いた企業の担当者が突然の人事異動。
感傷に浸るまもなく、新しい先生、新しい企業担当者との出会い。
そして、新たなる一年がまた始まろうとしています。
「愛別離苦」
思わず、こんな大げさな言葉が心に浮かんでくるほど
関わったみなさんとのお別れが苦しいのはどうしてなのでしょうか。
それは、「生徒の成長」というたったひとつの目的のために、
私たち大人も、懸命に頑張ったからです。
子どもたちが思う味気ない「お仕事」のイメージを遙かに超えて
この場に関わったすべての大人たちが、まさに自らの人生の一部として
純粋に、情熱を持って「生徒の成長」に与したからに違いありません。
五年ほど前、長崎にある私の母校を訪問した際に、
当時の校長先生がしてくれたこんな話を思い出しました。
「宮地さん、教師の仕事の完成はなんだかわかりますか?
それは、世界のどこかで誰かが、誰かの役に立ったとき、
その誰かが、この長崎西校の卒業生であることです。
たぶん、そのことを私は知ることができないでしょうし、
そもそも、そのとき、私が生きているかすらも危うい(笑)。
でも、それが教師という仕事の完成なんです」
ひとりの気高い教師の在り方、生き方に、深く胸打たれました。
クエストの場に関わる多くの大人たちが、
この校長の深い思いに、心から共感してくれることと思います。
この仕事に携わらせていただいていることを心から感謝して、
また新たな思いで、新年度を迎えたいと思います。
教育と探求社
宮地勘司
—-【目 次】 ————————————————–
1.教育と探求社からのお知らせ
2.クエスト実践事例紹介 [県立伊奈学園中学校(埼玉)]
3.QUEST DAYS~ある学校の授業風景~
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1.教育と探求社からのお知らせ
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(1)スカパーJSAT本社で高校生が役員の前でプレゼンを行いました
去る3月29日(金)、スカパーJSAT本社にて
2月に行われた「クエストカップ2013全国大会」
(http://questcup.jp/2013/index.html)
でスカパーJSAT賞を受賞した渋谷教育学園渋谷中学校
「チームKHAOS」の生徒たちが、社長をはじめとする役員の方々の前で
プレゼンテーションを行いました。
◆当日の様子はこちらから
http://eduq.jp/news/archives/4333
(2)オルタナSにクエストカップ全国大会の様子が掲載されました
若者による社会変革を応援するソーシャルメディア
「オルタナ」が運営するサイト「オルタナS」で、
弊社代表の宮地の記事が掲載されました。
◆詳細はこちらから
http://alternas.jp/study/news/36546
(3)「生徒が輝く体験学習」~先生のための勉強会~
のご案内
教育と探求社では、全国の学校へお伺いし、
無料で先生のための勉強会を開催しています。
「キャリア教育に関心がある」、
「生徒のためになる面白い授業を行いたい」、
等、ご要望をお聞かせ下さい。
目的に沿った勉強会をご提供させていただきます。
◆詳細・お申し込みはこちらから
http://eduq.jp/seminar/index.html
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2.クエスト実践事例紹介 [県立伊奈学園中学校(埼玉)]
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このコーナーでは、「クエストエデュケーションプログラム」
を導入している学校の授業での様子や、ご担当の先生のインタビューを
紹介します。
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先月から3回にわたり、クエストカップ2013全国大会で
グランプリ受賞を果たした各校の先生インタビューをお届けしています。
第二弾となる今回は「人物ドキュメンタリー」部門でグランプリを獲得した
埼玉県立伊奈学園中学校の中村先生にお話をうかがいました。
2010年度から中学3年時の総合的な学習の時間を使って
「進路探究コース」に取り組んでいる同校は、作品の読み込みの深さと
発表手法の独創性に特徴があります。
特に、発表手法は秀逸で、テレビ番組風のお芝居や
再現VTRは当たり前、さまざまな手法を絶妙なバランスで組み合わせ、
どのエントリー作品も見るものを飽きさせない工夫を感じさせる
力作揃いでした。
今回グランプリを取った「未来に化ける新素材」チームは
水木しげるさんのドキュメンタリー作品に取り組みましたが、
黒板にチョークで絵を描き、その写真を何枚も重ねて作った動画は
圧巻の出来栄えで、よく練られた脚本とともに
独自の世界観を作り出していました。
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先生インタビュー【埼玉県立伊奈学園中学校 中村 則裕先生】
Q.「人物ドキュメンタリー」部門でグランプリを受賞して
生徒たちの反応はどうでしたか?
A. 大変光栄な賞を生徒がいただくことになり、
大きな喜びとともに生徒の深い自信につながったようでした。
早速、全校朝会で表彰しました。
Q.生徒たちのモチベーションを維持するのに、
苦労することはありましたか?
A.テキストや動画が多数用意されていたため、
それらを有効に活用させてもらい苦労することはありませんでした。
特に宇佐くん(※編集注.弊社が提供している動画教材の中で登場する
進行役のウサギのキャラクター)の動画は生徒の反応もよく、
学習活動の道しるべとして最適でした。
その後、テキストを使って活動の流れを生徒に確認させました。
活動の目的がはっきりわかることは、
モチベーションの維持には不可欠だと思います。
Q.生徒たちの作品をブラッシュアップするために
どのようなことを心がけてきましたか?
A.生徒の創意工夫や、やる気を最大限に生かすために
十分な時間を確保したり、活動できる教室や学園内施設などを
提供するように心がけました。
また、ビデオカメラを使って自分たちの発表を
客観的に見せることも改善に役立つと思います。
本校では今年度からタブレットPCを一人一台ずつ貸し出し、
学習活動で活用しています。
発表練習の際、タブレットPCのビデオ機能をつかって、
生徒が発表時の互いの動きを撮影し、改善点を模索していました。
発表の練習時には、国語科の先生もその様子を見にきて
アドバイスしました。
Q.一年間の授業の中で印象に残っていることは?
また、取り組んでよかったと思うところは?
A.「私の履歴書」の綴られた冊子を黙々と読み込む生徒の姿と、
生き生きと発表練習をする生徒の対象的な姿が一番印象に残っています。
取り組んでよかったと思ったことは、生徒が仲間と協力し合って
一つの作品を完成させようと計画的で自発的な活動ができたことです。
Q.最後に先生ご自身のクエストカップに参加した感想を教えてください。
A.クエストカップの当日は学校行事の都合でうかがえませんでしたが、
学校からUSTREAM中継でその様子を見守りました。
普段の学校の中で見る生徒の姿とは違って、
当日、モニター画面を通して見る生徒の姿は一段と大きく見えました。
クエストカップの舞台上で発表した生徒も、
中継で仲間の活躍を見守っていた生徒も、
これまでの歩みを思い起こしたのではないかと思います。
この学習プログラムで得たものを自身の中で消化し、
新たな自分の生き方を構成する栄養素として
十分に吸収したのではないかと思います。
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3.QUEST DAYS~ある学校の授業風景~
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このコーナーでは、ある高校でクエストに取り組む現場の教師が、
生徒と共に日々奮闘する姿をエッセイ風に書き綴っていきます。
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3月1日「3,000字のラブレター」
クエストカップ全国大会を終え、今日は最後の授業
「STEP24 すべての活動を振り返る」の授業を行った。
このステップでは、一年間インターンをした企業の先輩たちから
最後のメッセージをもらい、それぞれの一年間の取り組みを振り返る。
今年は18名の生徒たちがこの授業に取り組み、
全員が全国大会を法政大学の会場で参観した。
彼女たちは二年連続でクエストの授業を選択し、
昨年の悔しさをバネに、さらに深い探求をしてきた。
一年前と今年の振り返りでどのような変化があっただろうか。
これまでの取り組みと全国大会を参観して感じたことを
3,000字以上にまとめて書くように指示を出すと、
彼女たちは黙々と書き始めた。
彼女たちの文章を読むと、そこには彼女たちの苦悩や葛藤が溢れ、
一年分の想いがすべて凝縮されていた。
それはまさに、彼女たちが私にくれたラブレターのように感じた。
ある生徒は自分の心の中にある“善の心”とそうでない心の葛藤の中で
ありのままの自分を受け入れる覚悟をした。
彼女は昨年の全国大会で、ほかのチームが選ばれたことを素直に喜ぶ
“善の心”と、自分たちが行けなかった大きな舞台に立つ
クラスメイトの姿を羨む“善でない心”が交差していることに気づき、
戸惑っていた。
そして今年もまた、クラスメイトが発表する姿を眺めながら
自分の心が複雑に揺れ動くのをじっと感じていた。
そして彼女は最後に、こう締めくくった。
「今回のクエストカップで何を学んだかと聞かれれば、
プレゼン力の向上でも、チームワークの大切さでもなく、
自分自身の気持ちの変化でした。
よい面も悪い面も含めて自分の気持ちを素直に認め、受け入れること。
人から見たらとても些細なことかもしれませんが、
私にとって革新的なことでした」
ある生徒は予選通過の発表を聞いたときの気持ちを綴った。
絶対に全国へ出場しよう、とチームメイトと一緒に意気込んで始めたが、
次第に全国に行けるレベルではないと感じ、自信がなくなっていった。
結果を聞いて「やっぱりな」と自分に言い聞かせながらも
少しだけ悔しい気持ちになっていたとき、チームメイトが発した一言で
ハッとさせられた。
「でも、私楽しかったな」。
そのことばを聞いて、彼女は自分が今年の授業で掲げた目標である
「楽しく授業に参加して、胸を張って『これが自分の企画です!』
といえるような企画を作ること」を思い出した。
全国大会に行くのは正直面倒だったけれど、
参観しながら悔しい気持ちが芽生えたことにも気づいた。
去年よりもずっとずっと悔しい気持ちだった。
なぜだろう。
それは自分が当初掲げた目標を貫けたからだ。
今回の企画はちゃんと自分の意見を言い、
本当に自分たちがやりたいことを形にした。
だから、去年と違った気持ちでほかのチームの作品を
見ることができた。
そして、どのチームよりも楽しんで、
最高のチームワークで授業に取り組むことができた。
実際、唯一このチームだけが全員、一日も休むことなく
授業に出席した。
彼女は最後に力強く、こう締めくくった。
「今年の授業は毎回の授業があっという間に過ぎるくらい楽しかった。
去年の授業では得ることのできなかった『楽しい』という気持ちが
一年を支えてくれた。
全国には出られなかったけれど、満足のできる一年でした」
そして、ある生徒は何度となく美しい涙を流した。
予選結果で選ばれなかったとき、悔しさを必死で隠し
心の中で泣いたこと。
全国大会でクラスメイトの努力が報われたことを
自分のことのように喜び、涙を流したこと。
彼女たちがグランプリを逃したとき、悔し涙を流したこと。
彼女は昨年の悔しさを晴らしたくて、
全国大会に出場することを誰よりもこだわっていた。
しかし、途中で自分の「勝ちたい」という身勝手な気持ちを
チームメイトに押しつけていたことに気づき、
自分がどんなに小さな人間だったのか思い知った。
それに気づいた彼女は劇的な成長を遂げた。
そうでなければ、自分以外の人のためにこんな美しい涙は流せない。
彼女は日本経済新聞社から出された
「経済をもっと身近に感じる教育プログラムの開発」
という課題に取り組んだ。
大半のチームがゲーム感覚で楽しみながら学ぶという提案をする中で
苦労や困難を乗り越えていく中にこそ本当の学びがあるという
自分たちの企画の趣旨を最後まで貫いた。
一年の取り組みの最後を、彼女は次のように締めくくった。
「私たちが考え抜いた“教育”の意味は、この授業でたくさんの努力と
苦悩した一年間があったからこそ得られた結果だと思います」
“悔しさこそが人を育てる”。
それは私がずっと教育の中で貫いてきた信念だ。
授業の結果ではなく、その過程の中でさまざまな気づきを得た
彼女たちのレポートが、まさにそれをしっかりと示してくれた。