
法政大学中学高等学校(以下、法政高校)は、2008年度から探究学習プログラム「クエストエデュケーション(以下、クエスト)」を導入、高校3年生の選択授業のビジネスコースにおいて、2種類のプログラム(ソーシャルチェンジ・ファースト、コーポレートアクセス)を実施しています。
2023年度で16年目の実施となる法政高校ですが、実は2010年度から12年間授業を担当されてきた先生が定年により退職。「授業を続けられないのでは?」という声もありましたが、2022年度から藤山 弘幸(ふじやま ひろゆき)先生が受け継いで実施することになりました。
受け継いだ当時の様子、またクエストを実施してどのように感じたのか、 藤山先生にお話をうかがいました。
目次
大学のように自由な雰囲気で学べる高校

ー法政高校は、先生からみてどのような学校でしょうか?
小規模な学校なので、教員も生徒も含めて、家族のように感じています。生徒と教員との距離も近く、生徒から話しかけてくることも比較的多い、和気あいあいとした雰囲気です。
私も法政高校出身なのですが、当時からそのように感じていました。生徒の8〜9割は法政大学に進学するのですが、大学の自由な雰囲気が高校でもすでにあると感じています。
ー大学らしさが高校にもあるのですね。
そうですね。また、学校の特徴としては、大学やこの先の進路にもつながるよう、生徒たちが自分の興味があるところを突き詰めたり、挑戦できるような土壌作りに力をいれています。
たとえば、一学期、二学期の終わりにそれぞれ「夏季特別講座」や「冬季特別講座」を実施しているのですが、これらは高校1年生のときから選択制です。将来のことを考えて選択する機会をあえて作っていき、生徒たちが「選ぶ」という練習ができたらよいと思っています。
高校2、3年生では必須の選択授業もあります。選択授業のなかには、マスコミ(Masscommunication)やビジネス(Buisiness)、法学(Law)や簿記(Accounting)など、大学で学ぶ教養の入門的な内容を学習できるものがあり、大学のようにテーマごとにゼミを設置しています。私たちは頭文字をとって「MBLA」ゼミと呼んでいます。
この「MBLA」ゼミのビジネスコースに、クエストの「ソーシャルチェンジ・ファースト」と「コーポレートアクセス」を取り入れています。
教員それぞれの経験を活かした授業作り

ー藤山先生は、前任の先生から引き継いで2022年度からクエストに取り組んでくださっているとうかがいました。引き継いだ当初は、どのような様子だったのですか?
当時は、前任の先生が長年やってきた授業ということもあり、「彼でないとできないのではないか」とみんな思っていたんです。授業をどうするか、教員の間で議論になっていました。そのときその前任の先生が、「外部の教材を使った探究学習がこういうものだと知るには、絶対にいい」「誰でもいいから、やってみたほうがいい」とおっしゃったんです。
そして、授業の基本的な流れは教材があるから大丈夫だし、せっかくやってきたプログラムをなくしてしまうのはもったいない。やってみれば誰でもできるからそのまま続けていこう、という話でまとまりました。
ちょうどその年の高校3年生とは中学の時に副担任として関わりがあった学年ということもあり、私が担当させていただくことになりました。
ー実際にクエストを引き継がれてみて、いかがでしたか?
やはりはじめはプレッシャーがありました。ですが前任の先生からお話を聞き、先生も色々試行錯誤しながらやってきたことがわかって安心しました。
「いろんなやり方をして、ここ数年大体自分の形はこういう形で固まったんだよ」「ある意味何でもやれる授業だから、自分が持ってる経験を使って、独自色出してやっていけばいいんだよ」とも言っていただきました。
また、基本はグループワークになるため、クラス運営やホームルームといった中学での経験が活かせると知り、まずはその感覚でやってみよう、と始めてみました。
完全に生徒たちのスイッチが入った!

ークエストの「コーポレートアクセス」を実施してみて、生徒たちの様子はいかがでしたか?
最初は「難しいことをやるのかな」「一体何をやっていくんだろう」といった雰囲気でした。
冒頭の「働くってなんだろう?」といった話にもあまりピンときていないようでした。高校卒業後に働く生徒はほとんどおらず、アルバイトも禁止ですので、「働く」ことが自分たちからは遠い世界の話なのだと思います。その後の、企業について調べる作業も、普段の授業で行っている調べ学習とあまり変わらないように思えました。
しかし、全てが変わったのは、実際に企業からの「ミッション」が提示されたときです。「これは何!?」「わけがわからない!」という興奮とともに、完全に生徒たちのスイッチが入りました。
「ここは意見が違うけど、この部分は同じだね」「こうしたらいいんじゃない?」「なんかこれが面白そう!」と、どんどん教室の雰囲気が変わっていって、生徒たちは意見を出し合ったり考えたりすることそのものを楽しんでいる様子でした。
それからは私がなにもしなくても、生徒たちが自分たちで進めていました。私の知らないところでいつの間にか、休み時間や放課後に集まって勝手に全部やっていたこともあったんです。宿題を出しても、それ以上のものが返ってきて驚きました。
ー生徒たちが自分たちでどんどん進めていたのですね!
アンケート調査も、自分たちで考えていろいろな手段で実施していました。
アナログな方法では、アンケート用紙を作成して配布するもの、今どきだなと思った方法は、SNSを使いこなして、アンケートフォームで答えてもらうものです。みんな結構な数を集めてましたね。
私は「一週間だし、30人分ほど回答を集められたらいいだろうな」と思っていたのに、「先生これコピーしてください、とりあえず100枚お願いします!」とアンケート用紙を渡されたときは、「えええ本当?!」とびっくりしてしまいました(笑)
一番少ないチームでも50人分ほどの回答を集めていて、もう、なんというか、予想を超えてきたなと思いました。
コーポレートアクセスの授業に入る前に、データ分析の仕方を教えていて、「データの数が少ないと偏ってしまう」「データが多い方が傾向も見えやすい」などと話していたので、それもあって生徒たちは頑張ってデータを集めていたようです。思いのほか、事前に伝えた話を活用してくれてるんだなと感じて嬉しかったです。

法政大学高等学校のチーム「てとらすまいる」は、クエストカップ全国大会でグランプリを受賞。株式会社オカムラのミッションに挑戦し、評価への不満が辞職につながることに注目して、会社員の頑張りを共有するAI「ほめーる君」を提案しました。「多様な人が本気を出せるようにしたい」。
調査したことをまとめる「新聞づくり」
ー先生が授業で工夫されていたことを教えてください。
調査やアンケートの後、グループ間で情報共有を行う際に、ただ単に口頭で発表するだけでなく、しっかり一枚の紙にまとめることを徹底していました。それを積み重ねることによって、最終的なプレゼンテーションやスライド作成に繋がると考えていたためです。
目に見える形にしよう、というところは意識してやっていましたね。
ー新聞形式のまとめを作成されていましたよね。
そうですね、五時間目・六時間目(各50分)と続けて授業をしているのですが、五時間目を使って調査したことを新聞形式にまとめ、次の六時間目に発表、という形を取りました。
私も「50分は絶対足りないよな」と思ってはいたし、生徒たちも「時間たりないよー!」と言ったりはしていたのですが、みんなうまくまとめていましたね。

それぞれの班でいろんなやり方があって、チームで書く部分を分担してそれぞれ書いたものをぺたぺたって張り合わせる班もあれば、ひたすら文章を書く人、絵を描く人と分担してた班もありました。最初に話の流れやレイアウトを考えて、役割分担をして、うまくチームの中で話をして、連携をとって、共同作業していたなと思います。
先生自身も「探求」していた

ー改めて、昨年度の一年間を振り返ってみていかがでしたか?
やっている間は正直必死で、教材に頼る部分も多かったなと思います。「次はこうか」「その次はこうか」といった感じで授業を進めていました。
でも、振り返って全体を見てみると、「この子たちには、これをやったら面白いかな」と新しい要素を加えてみたり、オリジナルなアイデアを加えていきながら実践できたと思います。
生徒たちがミッションに取り組む姿を見ていると、自分自身も教育のアイデアが湧いてきて、生徒たちに対してどんどん新しいことを試してみようという思いが湧いてきたんですね。だから、生徒たちの発想力を引き出すために、さらなる課題を与えたり、無茶振りをしてみたりもしました。
生徒たちがミッションに取り組んでいく姿勢を見ることで、私自身も探求心を持って授業を進めていたのかな、と感じます。生徒たちにはもっと新しい発想力や可能性を引き出してあげたいし、いい意味で彼らに餌を撒いてあげたい、そうしたことを強く感じた一年でした。
ーはじめはプレッシャーを感じられていた授業とおっしゃっていましたが、実際に実施されてみて、今どう思われますか?
「クエストはいろいろな人がやったほうがいいな」と思います。実際去年中盤から、私も教員との間でこのことをお話するようになりました。
教員をしていると「担当する教科」があって、その教科だけをみるようになってしまいますが、この授業を担当することで視野が広がるし、自分自身の成長にもつながります。
そして、教材がしっかりと整備されているから、やろうと思ったら誰でもチャレンジできる。そうした柱がある中で、自分らしさを発揮しながら、生徒たちと共に成長していけることが、重要なポイントだと思いますね。教員にとっても自分の新たな可能性を見つけるチャンスになるので、どんどんやったらいいと思います。
最後に、この授業を通じて生徒たちとの探求を楽しんできました。生徒たちの成長を見守ることで、教育の面で新たな視点を得ることができたと思います。これからも、たくさんの生徒たちと共に探求し、成長していきたいと思います。

法政大学中学高等学校
1936年に「法政大学第一中学高等学校」として市ケ谷に創立。2007年、三鷹市牟礼に移転し、法政大学中学高等学校を開校。「自由と進歩」の校風のもと、「自主自律」を育む。