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teacher's voice

埼玉県立伊奈学園中学校は“自彊(じきょう)創生”を校訓に
「表現(国語と英語を融合した教科 翻訳・プレゼン・ディベートに取り組む授業)」、
「国際(社会と英語を融合した教科 国際的な問題について学ぶ授業)」、
「科学(理科と数学を融合した教科 文科省によるサイエンス・パートナーシップ
プログラムを使った授業)」といった学校独自の選択科目を行なう
全国でも珍しい6年間一貫教育の公立中学校です。

大宮駅からニューシャトルに乗ること30分弱、広大な敷地を有する同校は
昭和59年に埼玉県のランドマーク(歴史的建造物)として創られ、
高校も合せると現在2,700人近くの生徒たちが共に学んでいます。

2010年度から中学3年時の「総合的な学習の時間」を使って
「進路探求プログラム『私の履歴書コース』」を行っています。

インタビューで訪問した当日は、ちょうど自分史(過去編)の発表会でしたが、
発表の仕方だけでなく生徒による作品の審査形式もユニークで、
生徒たちが飽きることのないよう配慮された授業を行なっていました。

グループ毎に自分史をまわし読みして、その感想を本人のワークブックに
直接書き込みフィードバックするというやり方や、全員の前で発表生徒を選ぶ際に、
一番印象に残った作品を書いた生徒のワークブックにシールを貼って投票するなど、
自然にクラス全体で評価し合うという流れを作っていました。

先生は、このようなやり方について「当日の一時間前に決めた思いつきです」
と謙遜されていましたが、どうすれば生徒の学びを深めることができるか
ということを日々考えているからこそ、こういった柔軟な発想が生まれるのだと
感心させられました。

Q.クエスト授業を導入するようになって、生徒たちにとって
どのような変化・成長があったと感じていますか?

A.藤間:やはり、“コミュニケーション能力”に変化があったように感じます。
クラスメイトと話す際に、以前に比べ抵抗がなくなったり、他の子の自分史を読み、
感想を持ったりするなど、普段の教科授業では腰を据えて取り組めないような
学習を行えたので、生徒たちのコミュニケーション能力を育てることが出来ました。

島村:前半の授業では日野原重明さんや水木しげるさんといった
それぞれの人生を振り返るドキュメンタリー作品を作ることにより、
先人たちの人生観に触れました。
私たち大人は、どうしてもパワーポイントで表現していくというような
発想ぐらいしか思い浮かびません。
でも、生徒たちは紙芝居や寸劇などを取り入れ、
自由な発想で先人たちの生き方を魅力的に表現してくれました。

こういった“パワーポイントには頼らない表現力”というのは、
生徒たちがじっくりと話し合っていく中で生まれたもので、
普段の教科の授業ではやりたくてもなかなかできない取り組みです。
この授業を通して、表現力という部分ではかなり力が付いたのではないかと思います。

Q.この授業をする中で、先生たちはどのような工夫をされていますか?

A.藤間:2点あって、ひとつは時間をきっちり区切って、
限られた時間しか与えなかったことですね。
敢えて意図的に突き放すことによって、自分たちで期日を決めて
段取りする力というか、学習計画作りというものをさせました。

そうすることによって、生徒たちは自然と与えられた時間内に終わらせようと
授業時間を有効に使う努力をしていたし、終わらなければ自主的に放課後残ったり、
朝早く登校してパソコンルームで作業したりする生徒が結構いましたね。

もう一つは、教師は非常に苦しいのですが、後半の授業で自分史を書く際
生徒一人ひとりと面談しました。
全員の生徒の話を面談し終わった後は、魂を抜かれたような感じでした。

なぜ、そのようなことをしようと思ったかというと、
授業をやっていく中で「これは生徒と面談しながら筋道を示していったほうが、
自分のテーマや考えを整理できるかもしれない」
と二人で相談した結果、自然な流れで思いついたことです。

「どういう自分史を書いたらよいのかわからない」と生徒が言うので、
私たちは「将来の希望は何か」ということや、「一番印象深かったことは何か」、
「聴き手が一番聞きたい情報は何か」、ということを面談しながら
彼らの情報に軽重を付けて、これが良いというのを小まめに面談しました。

島村:生徒たちだけで自分史をまとめると、これまでの生い立ちを
時系列に沿って並べるだけになってしまい、一人ひとりの個性や特徴が
見えてこないことが多くあります。

そこで格好よく言えば問答法のような感じですが、その面談の過程で
「これはどういうこと?」と話していくうちに、生徒たちの中で
これまで歩んできた様々なエピソードに軽重が出てきます。

これまでの出来事を年表に書いていく中で、
自分では意識してないけれど友達のことが多かったり、
旅行のことが沢山出ていたり、そういったことを改めて構成し直してあげると、
生徒たちは「ああ、そうなんだ」というように次第に自分のテーマを
絞れてきたように思います。

Q.ちなみに、その作業は全員に行なったわけですが、
どのぐらいの時間が掛かりましたか?

A.藤間:生まれてからこれまでの年表やエピソードを書く作業は個人差があるので、
出来た生徒から持ってくるように指示して面談しました。
全体に指示を出す合間を縫って、ワークシートを書く2時間か3時間の授業内で
全員の話を聞いた感じですね。

でも、決して意図的ではないんです。
いつも授業のある日の朝に「どうする、今日?」という一言から始まって、
その都度、目の前の生徒たちを生かすために「今は何が必要か?」
と方向性を決めていった感じです。

島村:でも、そのように授業の方向性が決められたのも、
テキストがしっかりあって、ほとんどアウトラインができているからこそ
それに生徒たちを乗っけて、足りない部分を私たちがサポートできたのだと思います。

Q.そんな大変な作業を経て、本日ようやく(自分史の)発表会を迎えたわけですが、
生徒たちの発表を見てどのようなことを感じましたか?

A. 島村:普段の生活の中で見られない新たな一面を見ることができて、
生徒たちもそうだったと思いますが、お互いが新しい視点で
その友達を見るきっかけになったと思います。

藤間:それは、教師側にもありました。
普段おとなしい生徒が、飼っている猫の死に直面し、
段々と冷たくなっていく様を淡々と発表する姿を見て
「この子は、こういう経験をしてきて、今があるのか」
と思い、感心しました。
そういった背景は、普段の姿からは絶対に想像できなかった部分ですから。

島村:みんなの自分史を読んだり発表したりすることで、
他の人の生き方を考えるきっかけにもなると思います。
「大人とは何か」、「友達って、一体何?」
といった、哲学的な問題に意識が向くというか。
そういうテーマを真剣に話す生徒を見ると、やはり彼らのレベルで
色々深めているんだなと感じました。

さらに、この自分史を書くにあたって、
前半で「私の履歴書」を学んでいたのが大きかったですね。
螺旋的に学習が組まれていたのが重大な要素だと思います。
中3のこの時期には自分史作りをする学校もあると思いますが、
これまでの経験から、事実の羅列や「○○が楽しかった」などの
単なる感想で終わってしまうことが多いです。
15年間の人生についてテーマを絞って振り返る、というのは相当難しいことです。

でも、前半で先人たちの歴史を読み解き、考えた時間があったからこそ
この自分史のテーマというか、伝えたい意図や構成が
スーッと頭に入っていったのだと思いますね。

Q.それでは最後に、この授業全体を振り返ってみて、感じたことがあれば教えてください。

A. 藤間:もっと時間を掛けて取り組ませてあげたかったなという思いが大きいですね。
他の学習も並行しており、全体的にタイトなスケジュールで行なっているため
特に前半のロールモデルの作品づくりが消化不良に終わってしまったのが残念でした。

島村:入学すると、各学年で職業体験や環境問題についての調べ学習など
色々なことに取り組んでいるのですが、とりわけこのプログラムについては
じっくりやらせてあげたかったなというように感じました。

理想を言うと、2年でロールモデルのドキュメンタリー作品に取り組み、
3年で自分史に取り組むという形が取れたら、もっと生徒たちの学びが
深まったと思います。

藤間:生徒たち自身も、文化祭での(ドキュメンタリー作品の)発表が終わった後、
「もっと、ここをこうしたかった、直したい!」ということを言っていました。
短期間でやろうとすると、どうしても自分たちの中で方向性が固まってしまうから
修正が難しくなるし、その結果、中途半端な形になってしまって
消化不良になったかなと感じます。
今日の自分史発表会のように、お互いが講評し合う中間発表のような場を持てたら
もっと作品を磨いて、深く内容を掘り下げられたと思います。

島村:それから、今回の自分史発表会で感じたのは、
自分の心を解放できなかった生徒もいたのは事実です。
この多感な時期に同年代の生徒を前にして、
洗いざらい何でも話せる生徒が多いとは限りません。
でも一方で、たとえ解放できなかったとしても他の生徒たちの作品を読むことで、
自分の内面を語ることの素晴らしさや大切さを感じてくれたらいいなと思いました。


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